駄目人間 空を見上げると、申し訳程度に星が見える。星に詳しくない俺には、どれがどれだか判らない。 「転けるなよ」 隣を並んで歩く嶋さんが、くすりと笑う。煙草の煙と臭いが、俺の目と鼻を刺激する。 「転けませんよ」 視線を空から、煙草の煙へと移す。 嶋さんはいくら禁煙するように言ったて聞かない。煙草だけじゃない、ギャンブルだって止めない。ギャンブルにいたっては、勝ちもしないのに給料の3分の2も使う。残りの3分の1は煙草代で消える。いい年したオッサンが、計画性もなく、喫煙とギャンブルをしているのだ。 俺よりも20も上で40後半になるくせに、俺よりも貯金がない。挙げ句、俺の家に転がり込んでおいて家事もしない。家賃も払わない。おまけに中間管理職で、ストレスが溜まるだとかで、仕事でのストレスを俺に当たる始末。 どうしてこんな駄目オッサンが好きなのか、自分でも不思議だ。 「洋一、喉乾いた」 買ってこい、とでも言うように背中を叩かれる。こんなんだから、奥さんに逃げられるし、娘さんにも疎まれるんだよ。口に出したら怒鳴られそうだから言わないけど。 私はあなたの家政婦じゃないのよ!なんて内心愚痴を溢しつつ、缶コーヒーを自販機で買う。投げて渡すと取り損ねて、缶コーヒーがアスファルトを転がる。 「ちゃんと取ってくださいよ」 転がる缶コーヒーを拾い、今度はちゃんと手渡した。 「ホント、俺がいないと駄目ですね」 なんて冗談めかして言ったら、脛を蹴られた。地味に痛い。 2011.05.09 ← |