犬 「愛してるよ。愛してる」 愛を囁き、俺の腕をネクタイと手錠で、ベッドヘッドに拘束する目の前の犬。犬は俺の腹の辺りを跨がっている。 つまり、この俺様の腕を縛り、腹の上に犬ごときが跨がっているわけだ。 「おい、何やってやがる」 人の安眠を邪魔した上に、この屈辱だ。絶対にただじゃ帰さない。俺の家ではなく、目の前の犬の家だということはこの際どうだっていい。 「もうここに住めばいいよ。外になんか出なくていい。僕以外見ないで」 この俺を監禁しよう、と言っているわけか。 「外せ」 思ったよりも低い声が出た。 犬はいやだ、と言って聞かない。 お座りも出来ねぇ犬を側に置いてやった覚えはない。 「ここで従うか、棄てられるか、死ぬか選べ」 3択も準備してやるなんて、俺もまだまだ甘いな。 「外したら、もう僕は棄てられるでしょう?」 棄てられるのなら死ぬ方がマシだ。なんて言って俺の頬を触ってくる。 「従ったら棄てねぇよ」 飼い犬に噛み付かれた、ぐらいで終わらせてやる。 お仕置きはするけどな。調子に乗った分、しっかり躾をしないといけない。 「外せ」 もう一度言うとビクリと肩を震わせた。 「怒ってるの?」 「当たり前だろ。痛いから外せよ、なあ?」 ネクタイと手錠で拘束された手を動かすと、ガチャガチャと金属音がなる。 手首はきっと赤くなっている。犬はそれを見て眉を顰める。 「外せ」 もう一度言うと、犬はゆっくりと手錠とネクタイを外す。手首は案の定赤い。 「お前とはしばらく連絡とらねぇから」 一発殴り、見下ろす。犬は犬らしく、チワワの様な目で見上げてきた。 「調子に乗るなよ。飼い主は誰だ、あ?」 もう一度殴ると、ようやく謝った。犬をそのままに、部屋を出る。あーくだらない。 2011.05.07 ← |