3つのカニバリズムの話 | ナノ





 旅行は近くの某国になった。
 加奈子がどこでもいいって言うから、好きにさせてもらった。
「ねぇ、加奈子。すごくいいお店があるんだけど、行かない?」
「好きにしたら」
 至極面倒そうな加奈子を連れて、路地に入っていく。
 人気のないほうへ進むにつれて、加奈子が不安そうに、本当にこっち? と何度も聞いてくる。
「ほら、本当に美味しいお店って、わかりにくいところにあるじゃない。日本でもそうでしょ?」
 なんて言ってやったら、納得したように頷いた。
 ごめんね。
 心の中だけで、呟く。
 路地の突き当たりまでくると、私はその壁を押して中に入る。
 強面なお兄さんに予約していることを伝えると、中に通してもらった。
 薄暗い店内に、また加奈子が不安になったようだったが、今度は無視する。
 オーナーにビーフシチューにして、と伝えて中央の席に座る。
 後ろを歩いていた加奈子が何かを喚いていたけど、そのうち声は消えた。
 ああ、そういえば、ビーフシチューじゃなかった。ビーフは入ってないもの。人肉ってなんていうのかな。
 向かいの席は空席。
 また、加奈子はいない。
 また、一人でビーフシチューを食べるのかな。加奈子は何時になるのかな。

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