4 旅行は近くの某国になった。 加奈子がどこでもいいって言うから、好きにさせてもらった。 「ねぇ、加奈子。すごくいいお店があるんだけど、行かない?」 「好きにしたら」 至極面倒そうな加奈子を連れて、路地に入っていく。 人気のないほうへ進むにつれて、加奈子が不安そうに、本当にこっち? と何度も聞いてくる。 「ほら、本当に美味しいお店って、わかりにくいところにあるじゃない。日本でもそうでしょ?」 なんて言ってやったら、納得したように頷いた。 ごめんね。 心の中だけで、呟く。 路地の突き当たりまでくると、私はその壁を押して中に入る。 強面なお兄さんに予約していることを伝えると、中に通してもらった。 薄暗い店内に、また加奈子が不安になったようだったが、今度は無視する。 オーナーにビーフシチューにして、と伝えて中央の席に座る。 後ろを歩いていた加奈子が何かを喚いていたけど、そのうち声は消えた。 ああ、そういえば、ビーフシチューじゃなかった。ビーフは入ってないもの。人肉ってなんていうのかな。 向かいの席は空席。 また、加奈子はいない。 また、一人でビーフシチューを食べるのかな。加奈子は何時になるのかな。 [目次] [しおりを挟む] |