3 「ただいま、加奈子」 声を掛けて部屋に入ると、ソファーに寝転んだ加奈子がいた。 「おかえり。昨日はごめんねぇ……てか話しあるんだけどいい?」 悪びれた様子はなく、言った。 「うん。ご飯食べながら話そう」 言って、ビーフシチューを温めるためにキッチンに行く。 「そんなのいいから、ちょっと来てよ」 苛立ったように、ソファーに座った加奈子がテーブルを軽く叩いた。 「そんなのって……」 「いいから早く!」 そんなのって、なに? んなのって、なに。そんなのって、なによ。 加奈子の隣に座ると、加奈子は溜め息を吐いた。 それが、妙に耳につく。 「あのさ。別れてくんない? あたし他に好きな人いるんだよね」 やっぱり悪びれた様子もなく、加奈子は言った。 「てかさ、あたしがあかねと付き合ったのもあかねが好きだってしつこく言うから付き合ったわけで……あたしもともとバイだし、やっぱり最終的には男と結婚したいじゃん。どうせ、あかねもわかってたでしょ」 私が何も言わないのを承諾と取ったのか、加奈子はソファーから立ち上がった。 「まあ、そういうわけだから。あっ彼、奥さん居てさ。そっちが離婚するまで一緒になれないんだよね。それまでここにいるから」 言って、加奈子は浴室に向かう。 「待って」 「なに?」 私が引き留めると面倒そうな声が返ってきた。 「最後に、最後の思い出に、旅行行こ」 加奈子は面倒そうに、頷いた。本当に面倒そうに。 また、私は、ビーフシチューを一人で食べた。 [目次] [しおりを挟む] |