1 薄暗い部屋。 リビングのテーブルに置かれた、たくさんの写真。薄いブルーのシンプルな封筒の中には、まだ写真が入っている。 便箋には"プレゼントです"と一言書かれていた。 これらは、夕飯の支度をしていたら新聞受に投函されたものだ。 恋人が、浮気をした、らしい。 写真はすべて、それの証拠写真だった。男と腕を組んでいる写真、キスをしている写真、抱き合ってる写真、そして――……。 こんなプレゼント、いらなかった。知りたくなかった。余計なお世話。 電気をつけることも忘れて、これを入れた人を呪った。誰だか知らないが、本当に余計なことをしてくれた。 もう、考えるのは止めよう。きっと、何かの間違いだ。 写真と便箋を封筒に入れ、それを自分の鞄の中にしまった。 電気を点けて、夕飯の支度を再開する。 今日は、恋人の――加奈子の好きなビーフシチューだ。喜んでくれるかな。 じっくり煮込んで、ようやく完成した。時計を見ると九時くらい。予定より遅い完成だが、まだ加奈子は帰ってないから丁度よかったかもしれない。 それにしても、まだかな。電話、してみようか。 それを見計らったように、加奈子が帰ってきた。 「ただいま、あかね」 甘えたような声とアルコールの臭い。飲んできたらしい。 「おかえりなさい」 近付くと鞄を渡された。 いつもはキスしてくれるのに、今日はしてくれないらしい。 一瞬、写真が頭を過った。 それをかき消すように、私から頬にキスをして加奈子の羽織っていたコートを脱がす。 「今日の夕飯、ビーフシチューだよ」 コートをハンガーに掛けながら、言う。 「あ、ごめん。外で食べてきちゃった」 冷蔵庫から出した水を飲んだあと、加奈子は悪びれた様子もなく言った。 「あたし、お風呂行ってくるね」 浴室の扉の音が、妙に耳についた。 一人の食事は、やっぱり寂しい。ここ最近、こんなことが多い気がする。 [目次] [しおりを挟む] |