5 腕や脚が宙を浮いている。その下には、バケツやボウルが置かれていた。腕や脚は切断されていて、切断面が下に向き、宙吊りになっている。 ――血抜き ふとそれが頭を過った。ドラマか映画か何かで見た肉屋で、こんなようなものを見たことあった気がする。 なんだこれ。なんだよ、これ。 その異様な世界の真ん中で、鼻歌混じりにノコギリを使う真っ赤な何か。 ――あなた食べて十月十日 ――待っていてね十月十日 「ふふ……そういえば、生で食べたら美味しいのかしら? なあに、孝彦さん恥ずかしいの? 大丈夫よ。孝彦さんの身体、きっと美味しいわ」 宙吊りになっている足から肉を少し抉り出し、何かは口の中に入れる。 「ほら美味しい……ふふふ」 食べた。今、人間の、しかも……旦那の肉を、喰った。なんなんだよ、これ。 慌てて部屋から出る。 部屋に戻ると康平の靴があった。帰ってきているらしい。 「何処行ってたんだよ、亜李栖」 リビングから顔を出し、康平が手招きする。それに誘われるように、リビングへ行く。一緒にソファーに座った。 頭の中からさっきの映像を消そうとするが、消えない。 チラリと康平を見る。美味そうに、焼肉弁当を食っている。 美味しいんだろうか、人肉ってやつは。 いや、そんな。まさかな。 テーブルに置かれたコンビニ弁当に手をつける。俺も焼肉弁当だ。 ふと、肉を叩くと柔らかくなるっていうのを思い出した。他にもコーラにつけたりワインにつけたり、冷凍にしたらいいらしいよなコーラとワインは臭みもとれるらしいし。 確か金属バットが玄関の傘立ての中にあったな。 いやいや、ダメだろ。何に使う気だよ。 あ、でも人間は腸が上手いとか聞いたことあったな。 立ち上がって、金属バットを取りにいく。あったあった。 金属バットを持って帰ってきた俺を、不思議そうに康平が見つめてくる。 振り上げて、いっきに叩き下ろした。呻き声を気にせず、何度も何度も繰り返す。 ちょっとだけ、ちょっとだけ、食うだけだから我慢しろよ。俺だってお前にくわれた時は痛かったんだ。男の子だろ。我慢我慢。 [目次] [しおりを挟む] |