4 安心して窓を閉めようとした時、鼻を噎せ返るような臭いが掠めた。 なんだこの酷い臭い。錆びた鉄を握った後にその手の臭いを嗅いだときのような、嫌な臭いだ。 ベランダに出て、外を見渡して臭いのもとを探す。駄目だ。風が強くてわかんない。もしかしたら、風に乗って遠くから臭っているのかもしれない。 あっそういえば、お隣さん大丈夫だろうか。夫婦喧嘩してたみたいだけど、解決しただろうか。 ふと気になって時計を見る。まだ9時前だ。訪問しても非常識って程でもないだろう。 外に出て、扉の前に立ってみる。怒鳴り声は聞こえない。 インターホンを押してみた。 暫く待ってみたが、誰も出てくる気配はない。もしかして、仲直りに外食に出掛けたのかもしれないな。取り越し苦労だったみたいだ。 部屋に帰ろうとした時、ガタンッと音と共に、キャッと悲鳴がして慌ててインターホンを押して扉を叩く。 「大丈夫ですか?」 扉の向こうからはもう音はしない。ドアノブを回すと扉は呆気なく開いた。 開けた瞬間、むわんと酷い臭いが鼻を刺激する。ベランダで嗅いだ臭いと一緒だ。 口元と鼻にハンカチを当て、中に入る。 「大丈夫ですか?」 声を掛けながら入っていく。 鼻歌が聴こえた。ねっとりとぐっちゃりとした音が全身の肌を撫でるような感覚。ぞわぞわと背中に嫌な汗が流れる。 無意識に息が上がった。そっとリビングを覗くと異様な世界が広がっていた。 [目次] [しおりを挟む] |