4 繰り返し繰り返し謝っていると玄関から音がした。慌てて玄関に向かう。 私を見るなり、孝彦さんは眉間に何本も皺を寄せた。 「今まで待ってたのか」 溜め息混じりに、低い声で孝彦さんは言う。 もう一度深い溜め息を吐き、私を押し退けるようにしてリビングに行った。私はそれを慌てて追い掛ける。 「もう限界だ! 何なんだよ、お前っ」 頭をかきむしり、孝彦さんは大きな声をあげた。 「何なんだよ! 俺何かしたか? なぁ?」 声を荒げて、孝彦さんは言う。 どうしてこんなに怒っているんだろう。どうしよう。わからない。 「何でいっつも申し訳なさそうなんだよ? いっつも怯えて。俺お前に何かしたか?」 何も言えない私に、孝彦さんは更に捲し立てる。 何を、こんなにも怒っているんだろう。 「ごめんなさい。私が至らないばっかりに……ごめんなさい。」 「口開けば、至らない至らないって何だよ? 俺がいつそんなこと責めたよ? 全然解ってないし、解らない」 孝彦さんは、また頭をかきむしる。 「昔はそんなんじゃなかっただろ、何があったんだよ」 孝彦さんの昔は、という言葉に思わず身体が震えた。 「私がっ私がダメだから……私のせいで、赤ちゃん流れちゃって、孝彦さん失望したでしょ。もう、これ以上、失望させたくなかったのにっ」 目の前がぼやけて孝彦さんが見えなくなる。 「美世子」 久しぶりに、名前を呼ばれた気がした。 嬉しいのに、苦しい。 「失望なんてしてなかった。そのことについて、俺は美世子を責めたか? 責めてないだろ。責めるわけないじゃないか。子供がいなくたって、俺は2人でやっていければよかった」 顔を歪め、苦しそうに孝彦さんが言う。 孝彦さんは、やっぱり優しいわね。 [目次] [しおりを挟む] |