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 痛いやめて、と顔を歪ませて結城が訴える。それを聞き流し、もう一度蹴った。
「ちょっ痛い! ふざけてないよ。ちょっと、落ち着いて聞いてよ」
 どうどう、と余計に怒りを煽るジェスチャーをする。矢内は黙らせるように、一発殴った。
 余計に騒ぎだした結城の胸ぐらを放し、矢内を座らせる。
「くだらねぇ理由だったらボコる」
 そう言って矢内も座った。
「夢にね、矢内ちゃんが出てきたの」
「は?」
 唐突な夢の話しに、矢内は間抜けな声を上げた。
 結城は気にした様子もなく、続ける。
「話したこともないのにね。ちょう、不思議でしょ? でね、キューピッドちゃんが言うの『彼が君の運命の人だよ』って。そんな夢を見たんだ」
 ペラペラと喋りだした結城に、矢内の思考が追い付かない。本当に日本語だろうか。
 矢内が追い付かないのにも気付かず、結城は続ける。
「いやいや、男じゃん? って思ってさ、相性を星に聞いてみたの。星だけじゃなく惑星とか血とかいろいろ聞いたら、平均してまぁ、相性ちょういいの」
 そこまで言うと結城は、矢内の手を握る。
「ってことで結婚してください。毎日味噌汁作ってください。それとこれ、受け取ってください!」
 言って、ポケットから小さな箱を出した。それを開く。中には、指輪が入っている。
「ちょっと待て! は? え? つーか、理由になってねぇ」
 矢内は机の下で、結城を蹴る。
 全然意味が解らない。目の前の男は、何を言っているのだろう。
 ため息を吐いて、頭を抱えた。
「この縄の理由は、運命の赤い糸って知ってるよね。あれは中国から伝わってきたんだけど、もともと糸ではなくて縄だったんだってー。でね、矢内ちゃん運命の赤い糸とか見えなさそうだから、目視できるようにしてみました」
 大の男が、少し頬を染めて言う。
 気持ち悪い。
「どこから突っ込んだらいいんだ」
 矢内は、頭痛を感じ、こめかみを撫でる。
 落ち着いて考えて見るが、結婚へと思考がトンだ結城の言っている意味は解らない。
 再度ため息を吐き、矢内は頭を掻く。
「もう、わかんねぇからボコるわ」
 自身に被害が来ないように、足首の縄をほどく。
 ほどいた縄を引っ張り、結城を地面に転がした。鈍い音と痛みを訴える声が聞こえる。それを全て無視し、腹を蹴る。
「ちょっと待って、痛いよ!」
 理不尽だ、痛い、やめて、と喚く結城が、静かになるまで、矢内は蹴り続けた。
 ぐったりと転がる結城を見下ろし、煙草を吸う。独特の臭いと味に、息を吐いた。
 泣いているのか、ぐす、と鼻を啜る音が結城から聞こえる。
 矢内はそれに笑みを浮かべ、口を開く。
「もう二度と近づくな」
 そう吐き捨て、煙草をポケット灰皿に入れて教室を後にした。
 これだけやれば、近付いてはこないだろう。

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