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 ――高校2年の夏、同じ目をさせた事があった。ほんの数年前の出来事は記憶に新しい。
 偶然、多田が社会人であろう男とキスしていたのを永野が見付け、写メを数枚撮影したのだ。それを知り合いの写真部に売り付けた。
 バスケ部主将で人気のあった多田を貶めるのは、一瞬だった。レギュラーからも落ちたらしい。
 孤立した多田を更に追い詰めたのも永野とその取り巻きだ。暴力で支配し、パシリにしていた。
 そして夏休みに入る数日前。今まで反抗的な目をしていたものの、逆らったことの無かった多田が初めて、逆らった。
 いつも通りパシリに使おうと肩に手を置こうとした瞬間、手を払われた。
「もうお前らには従わない」
 今思えば、この時既に退学届けを出していたのかもしれない。
 抵抗する多田を連れ、体育館倉庫まで行く。倉庫に入るなり逃げようとする多田に、暴力で捩じ伏せた。
 ぐったりする多田の頭を踏み、永野は笑う。
「ホモってさ、セックスするときケツ使うんだろ? お前あのおっさんの汚ねぇの挿れてたの?」
 取り巻きの1人がケツを蹴る。
「なぁ、どうなんだよ多田くん」
 ねっとりとした嫌な甘さを含んだ、永野の声が倉庫に響く。
「ま、いいや。……お前らこれヤれよ」
 永野は多田を蹴り、取り巻きの方に転がした。
 戸惑う取り巻きに、顎で催促する。
 最初は嫌悪が見えていたが、そのうち興奮してきたようだった。多田の悲鳴と取り巻きの興奮したような声。
 指示したのは永野だったが、気分が悪くなり倉庫の外に出る。
 気持ちが悪い。よく、男相手にできるな。頭がおかしいとしか思えない。
 指示しておいて、永野は嘲笑う。
 倉庫の外まで聞こえてくる声に、吐き気がして校舎に戻った。
 しばらく時間を潰して倉庫に入る。倉庫には多田しかいないらしい。
 酷い臭いだ。
 体液と砂で汚れた身体をぐったりとさせる多田に近付いた。意識はあるのか、目は虚ろだが開いている。
 近くにあった金属バットでつついても反応はない。全く面白くない。
 バットを脛に押し付ける。やっと目を向けた多田に、永野は口端を上げた。そのまま、バットを振り上げる。見開かれ揺れる目に、笑いが込み上げてきた。
 悲鳴ように上がった制止の声を無視して、それを降り下ろす。それを何度も繰り返した。
 嫌な音がして、ようやく永野は動きを止める。
 息を詰める多田を見下ろし、永野は満足そうに笑う。
 何枚か写メを撮り、永野は倉庫から出る。後ろから多田が永野を呼び止めた。振り返り、見下ろす。
「――お前、何がしたいんだよ」
 震えた声が聞こえる。
「さぁ。でもお前が死んだらいいと思ってる。……ホモってのは頭おかしいんだよ。病院行ってこい。それがイヤなら死ね」
 それだけ言って背を向ける。
 まだ何か言っていた気がするが、無視してそのまま出てきた。
 翌日、多田は学校に来なかった。流石に先生に呼び出されるかとも思ったが、それもなかった。そのまま多田は学校を休み、いつの間にか学校を辞めていた。

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