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 男は少しやり過ぎたと思ったのか、苦しそうに喘ぐ大河の背を気遣うように撫でた。
 一瞬、ピクリと震えた大河を気にすることもなく、男は手を動かす。
「……悪かった」
 バツが悪そうに、男が言った。大河は何も言わず、男を見る。
「こんなこと言えるほど、出来た人間じゃないんだ」
 男は居心地が悪そうに下を向き、爪先で小さな石を転がす。
 何も言わず、先を大河は待った。
「訓練はあるけど、デスクワークばっかでうんざりしてたんだ」
 男の爪先で転がっていた小石が、大河の爪先まで転がってきた。
「そこにこのあたりで連続放火事件が起こって、不謹慎だけど気持ちが充実してたんだ」
 大河の爪先にある小石を見つめ、男は言う。
「毎日のように、次はどこなんだろうなんて考えてた。それに気付いて何度も自己嫌悪した」
 自嘲気味に話す男を見つめ、大河は息を吐いた。
「さっき、自己満足だってアンタ言ったろ。図星で腹が立った」
 男はようやく小石から大河に目を移した。
 さっきまで孕んでいた時はもうない。
「消防士失格だ」
 溜め息混じりに、男は言った。
「……消防士どころか、人間失格だろう」
 大河は言って、煙草をくわえる。目に染みるのか、目を細め、紫煙が昇るのをじっと見つめた。
 空は随分暗くなってきた。
 ジッポーの蓋をカチンカチンと開閉を繰り返させる。
 男はじっと大河の仕草を見ている。
「君、名前は?」
「青田龍平」
 大河が聞くとボソリと男――龍平は答えた。
 そうか、と反芻するように言うと自身も名乗った。
「私は白浜大河です」
 言って大河は吸っていた煙草をポケット灰皿に入れる。
「まぁ、忘れてくれて構いません」
 態度が変わった大河に、龍平は怪訝そうな顔をしている。
 それを気にすることもなく、大河はポケット灰皿を懐に入れた。
「この年で警察のお世話になるのは、嫌だったんですけどね」
 ふっと自嘲し、続ける。
「自業自得ですね。次に出てくるときは定年後かな。結婚はしてなくて良かった」
 もう一度息を吐き、龍平に背を向けた。
 ゆっくりと遠ざかる背に、龍平も息を吐く。
「法律は詳しくないから解んないけど、出るときは迎えに行く。どうせ行くとこないんだろうし」
「失礼ですね」
 大河の背中が見えなくなるまで、龍平はその場に立ち尽くしていた。
働く男様

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