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 西の空が燃えているように赤い。
 それを大河は公園のベンチに座って見、フッと息を吐く。今日もこれから火を点けに行くつもりだ。
 ふとちんまりとした公園を見渡した。子供が数人、砂場で遊んでいる。目を細めて、それをしばらく見ていると子供達は母親であろう女性に呼ばれて帰っていった。子供が居なった途端、そこは一気に静まりかえた。
 自分も行こうと大河は立ち上がる。今日はこの辺にしようか。丁度人通りも少ない。
 煙草に火を吐け、ジッポーの蓋を開閉しながら歩き出す。
「ちょっと、アンタ」
 急に後ろから呼び止められ、肩を掴まれた。不躾な相手に思わず眉間に皺が寄る。
 手を振り払いながら振り返ると、ガタイの良い男が立っていた。冬だというのに、日に焼けた健康そうな肌がとても目立つ。歳も大河よりも一回り以上も若そうだ。
「なんですか」
 溜め息混じりに、大河は相手の用件を催促する。
「ここ最近の連続放火魔って、アンタだろ」
 質問と言うより、詰問だ。
 動揺を隠すように、大河は煙草をポケット灰皿へ入れる。
「失礼じゃないですかね。いきなり、犯人扱いですか。証拠はあるんですか?」
 大河の言葉に、男は携帯電話を取り出していくつか操作をすると画面を見せてきた。
 野次馬を写したであろう画像に、大河が写っている。そんな画像を男は幾つも大河に見せつけるように携帯電話を操作した。
「最近の火事の現場には、いっつもアンタがいる」
「偶然だろう」
「偶然にしては、アンタが現れる範囲が広い」
 詰め寄る男に、大河は溜め息を吐いて煙草に火を点けた。
 ドクンドクンと心臓の音が煩い。
 緊張しているせいか、煙草を持つ手が震える。
「君はずいぶん暇なんだな」
 嘲笑し、男を見る。
 大河の態度に、男はピクリと片眉を上げた。
「暇人の戯れ言になんて付き合ってられない」
 煙草を地面に落とし、それを踏んで大河は男に背を向ける。
「おっさん、落としモノ」
 怒気を孕んだ声で大河を呼び止め、腕を掴んだ。
「おっさんが放火した家の何件かは、俺が消した」
 男の言葉に思わず振り返る。振り返った大河の掌に吸殻を乗せ、男は溜め息を吐いた。
「本当はこういうの警察の仕事なんだろうけど、逮捕より、自首して欲しくてさ」
 男は地面を見詰め、ボソバソと言う。
「……君の満足のために、おれに自首しろと言ってるのか?」
 バカにしたように大河が笑うと、見咎めるように男が睨んだ。それを鼻で笑って、吐き捨てるように言う。
「……確かに放火はおれがした。認めよう。でも、自己満足したいなら他を当たってくれ」
 男は大河の胸ぐらを掴み、顔を怒りに歪めている。
「アンタに罪悪感はないのかよ。人の住むところや思い出燃やしてんだぞッ」
 強い力で捕まれた胸ぐらが引っ張られる。
「幸い今のところ怪我人も死亡者も出てないけど、いつか出るかもしれない。そうなってからじゃ遅いだろ」
 近距離でガタイのいい男に睨まれ、大河は少し怯む。
 男のいっていることは尤もだ。けど、警察になんか行きたくない。捕まるなんて、ごめんだ。
「わ、わかった。放火はもうしない。だが、自首もしない」
 胸ぐらを掴んでいる腕を掴み、大河は言う。
 男は目を細め、更に腕に力を入れた。
 大河の喉からヒッと音が出る。
「自首しなくても、いずれ捕まる。罪を償えよ」
 言って男はようやく手を離した。大河は咳き込み、息を整えるために深呼吸をする。

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