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キューブさんと俺!


 俺は英雄にはなれない。
 小学生の時に、ゲームの中で世界を救って来たような男達は多いだろう。もちろん、俺もその一人だ。
 その延長で、自分自身もいつか世界を救える気でいたけれど。成長するにつれ、無理だと悟るようになる。まぁ、俺はもう大学生なのだから未だにそんなことを思っていたらイタイ。
 そもそも有難いことに、この国は先人たちのおかげで平和だし。モンスターやゾンビなんてこの世界にはいないし。
 そういう意味では、英雄にはなれなかったけれど、俺はそれなりに幸せなわけだ。
 そんな平和な国で、それなりに幸せな男が、だ。例えばちょっと人に言えないような性癖を持っていてもおかしくないのではないのだろうか。自分でも何を言っているのか正直もう全然わからないが、俺は英雄にはなれなかったが変態にはなれたってことだ。
 胸を張って言えることじゃないが、俺は人間の女に興味がない。そもそも人間に興味がない。なんていうか、ホラーアクション系のゲームに出てくるようなクリーチャーがいいっていうか。そういうゲームや映画で抜けるっていう感じのあれだ。
 ここまでダラダラと御託を並べてきたが、いま俺が気に入っているクリーチャーを紹介したい。麻袋のようなものを被っていて、身長が4mもある。身体にあった大きな鎖鎌を持っていて、図体が大きいから動きは遅い。そんなチャーミングな彼の名前はキューブさん。最近発売されたばかりのホラーアクションゲームに出てくるクリーチャーだ。
 あまりの愛らしさに抜くのに必死でプレイできなくて、先に進めない。ゲームオーバーの画面を何度みたかもわからない。
 今日も今日とてのろのろと動くキューブさんに、邪な感情をいたいていた。抜いているうちに、主人公が地面に倒れる。それに合わせて、視点カメラの位置が低くなる。地面に倒れているような画面だ。
 またゲームオーバーか、と然程がっかりすることもなく、画面が映る前に画面端でのろのろと歩いているキューブさんを見納める。
 ジーッとみているうちに画面から消えてしまった。もう見れないかと肩を下ろすが、ふとおかしいことに気付く。もう数分経っているのになかなかゲームオーバー画面へと移らない。まだ、読み込み中なのだろうか。しばらく待ってみるが、キューブさんが、鎖鎌の鎖を引きずっている音がするだけで一向に画面は移らない。
 もしかして、まだ生きているのだろうか。コントローラーを握って、ボタンを押すが動かない。
「バグか?」
 思わずを呟くが、一人暮らしの部屋でそれに返答してくれる人はいない。
 さっきまでずるずると聞えていた音が、ぴたりと止まった。ようやく画面が移るのかと思ったが、またずるずると音が聞えてきた。なんだったのか。仕方ない、リセットでもするかと立ち上がる。ゲーム機のボタンを押そうとして、またキューブさんが見えて指を止めた。キューブさんが、ゆっくりと近づいてくる。
 もうしばらく、彼を見ているのもいいかもしれない。テレビから離れて、キューブさんを観察する。近づいてくるうちに、大きいから顔が見えなくなってしまった。それでも愛らしいあんよが見えている。急に、キューブさんが立ち止った。引き摺っていた鎖を持ち上げる。ブンブンと鎖鎌を振り回す音が聞えてきた。何故、急に攻撃態勢に入っているのか。やっぱり主人公が生きているのかとボタンを押すが、動かない。
 なんだろうとキューブさんを見ていると、顔のそばを何かが横切った。ヒュンと風を切る音がして、背後でドンと音がする。頬が、ヒリヒリと痛んで、そこに手を触れれば血が付いた。
 何が起こったのか全く解らない。
 テレビから鎖が飛び出していて、その鎖が俺の横を通っている。後ろを振り返れば、鎌が壁に刺さっていた。ここアパートなのに。
 テレビの方から、呻き声が聞えてきた。何事かと顔を戻せば、大きな手がテレビから出てきていた。
「え」
 間抜けな声が、口から漏れた。何が、起こっているのだろう。意味が、わからない。片手が完全に出てきたと思ったら、今度はもう片方の手が出て来た。
 某ホラー映画よろしく、テレビからキューブさんが出てくる。これは夢だろうか。
 夢だと思いたいのに、切れている頬がピリピリと痛む。
 恐る恐る壁に刺さっている鎌に手を触れた。鉄製だからか、ひんやりとしている。壁からゆっくり抜いた。腕に、どっしりとした重みを感じる。これで斬られたら、ひとたまりもないだろう。
 テレビの方を見れば、キューブさんはもう半分ほど出てきていた。
 キューブさんが出てきてしまったら、命が危ないだろう。さっきも鎖鎌で狙われたばかりだ。
 重たい鎖鎌の鎖を思いっきり引っ張って、自分の方へと引き寄せる。キューブさんが端の方を持っていたが、あっさりと抜けた。
 とにかく、この鎖鎌をどこかへ隠してしまおう。巻き上げだ鎖鎌を持って、リビングから出た。一人暮らしな上、そんなに部屋数があるわけではない中からコレをどこに隠せばいいのか。
 浴室に行き、浴槽に鎖鎌を入れてバスタオルで隠した。キューブさんはゲームの中でも武器を落としたり、鎖を踏んで転んだりするほど間抜けなのだ。きっとこれで見つからないはず。

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