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 コード本と睨めっこをしていると、窓からドンと衝撃音がした。
 口元が緩むのを隠しながら、衛は抱えていたギターを置いて、カーテンを開ける。
 窓の外には、向かいの家の窓から上半身裸の柚良が不機嫌そうに窓を殴ろうとしていた。
 慌てて窓を開ければ、柚良は舌打ちをする。
「遅ぇんだよ。どけ、そっち行く」
 さみーと文句を言いながら窓を超えて、柚良が部屋に入ってきた。風呂から出たばかりなのか、湯気が出ている。髪も濡れているのようだ。
「服着なよ。風邪ひくよ」
 衛はタンスからスウェットを出し、柚良に渡す。ドライヤーを取り出し、柚良の後ろに立った。しぶしぶスウェットを見るのを待って、衛はドライヤーのスイッチを入れた。
「お前、ギターへったくそだな」
 ドライヤーの音にかき消されることなく、衛の耳に柚良の声が届いた。
 聞かれていたのかと、恥ずかしくなる。上手になってから聞かせようと思っていたのに。
 何も言わない衛を柚良はチラリと見た。物言いたげな視線に、ドライヤーを止める。
「なに?」
「弾いてみろよ」
 置いてあったギターのネックを掴み、衛へと差し出す。受け取るのを躊躇していると、胸のあたりへと押し付けられた。しぶしぶギターを抱えれば、柚良が衛へと身体を向ける。
 改まって聴かれるとなると緊張する。震える手で、コードを押さえた。押さえる必要のない弦まで指に当たる。不協和音に、柚良の眉間に皺が寄っていく。それでも、衛は必死に指を動かした。
「ホント、不器用だな。お前」
 ついに耐えられなくなったのか、口を挟んだ。左手を見つめ、鼻で嗤う。何も言い返すことも出来ず、黙ることしか出来ない。
「なあ、これ弾けるか?」
 コード本の初心者用のコード譜を開き、衛に渡した。ハッピーバースデーだ。3つのコードで弾けるらしいそれを見せ、柚良は口許を緩める。
「俺が歌ってやるから、お前弾けよ。俺の歌、好きだろ」
 本人には一切言っていないはずなのに、どこからそんな自信がわくのか。
 自信たっぷりに言った柚良は、衛が準備をするのをジッと見つめ、待っている。有無を言わさぬその態度に、衛はコード譜に視線を落とした。
 チラリと柚良を見れば、顎で催促される。やるしかないらしい。
 最初の掛け声をどうするか、一瞬迷ったがかっこいい言葉が見つからない。結局、せーの、と声を掛け衛は指を動かした。
 へたくそで、しっかりと押さえられていないギターの演奏に、柚良の歌が混ざる。完全に不協和音だ。長く聞いていたら気分がわるくなりそうなのに、衛の気分はよかった。発声練習をしてないせいか、いつもより少し低い柚良の歌声に必死で合わせるように手を動かす。初心者の衛に合わせて、ゆったりとしたテンポで歌う柚良を見るのは久しぶりだ。テンポの速い、激しいロック調の音楽が好きな彼は、カラオケや軽音部ではそういう曲ばかり歌っている。音楽の趣味が合う、というより彼が好きだから衛も自然とそれが好きになったのだが、彼が普段歌わない曲を聴けているのが自分だけだと思うと正直優越感もあった。もちろん、それも本人には言えないが。
 これを音楽と言っていいかは甚だ疑問だが、一緒にしたいという願望は叶った。
 歌い終わった柚良も少し満足そうな顔をしている。
「まだまだだな。早く上手くなれよ。そしたらまた歌ってやるよ」
 衛の肩を叩き、柚良は言った。自信たっぷりな彼の様子に、衛は苦笑する。
 時計を見て、柚良は立ち上がる。つられるように衛も時計を見た。もう23時を指している。
「スウェット借りるぞ。洗って返す」
 窓を開け、それだけ言うと柚良は自分の部屋へと帰って行く。最後に衛がおやすみと声を掛けるとおやすみと返し、カーテンが閉まった。
 閉められたカーテンを見つめ、部屋の電気が消えるのを見届ける。それからようやく衛もカーテンを閉め、ギターやコード本を片づけてベッドに入った。
おいしいうさぎになるために様

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