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きれいにゆがんだC7

 不協和音が、部屋の中で霧散する。もう何度目だろうか。
 高校に入って早々に始めたアルバイトの初給料でようやく購入したアコースティックギター。それを抱えて、丹波衛(たんばまもる)は溜息をついた。不器用だという自覚はあったが、ここまでとは思わなかった。幼馴染の西園柚良(にしぞのゆら)と一緒に音楽をやるために買ったのだが、コードを押さえることすらままならない。
 柚良と初めて会ったのは、物心つく前だったと両親に聞かされていた。隣の家同士で、同じ齢の子供がいることから、両親同士はすぐに仲良くなったらしい。
 物心ついた時には隣にいるのが当たり前で、何をするにも一緒だった。その小さな頃の記憶の中で、衛は今でも鮮明に覚えていることがある。その時の衝撃は、脳裏に焼き付き、昨日の事のように思い出すことが出来た。
 保育園の初めてのお歌の時間の時の事だったと思う。先生の歌とキーボードに合わせて、友人たちと歌っていると隣から聞こえてきた声に、衛は息を呑んだ。舌足らずで、何を言っているのかも良くわからないはずなのに、子共ながらに心を奪われたのを覚えている。
 それからというもの、衛はお歌の時間中ずっと隣の柚良を見ていた。その度に先生に注意されたり、柚良と離された。
 大きくなるにつれ、見惚れることはなくなったが、柚良の声を聴くのに集中するのは止められなかった。高校生になった今でも、それは変わっていない。それどころか、声変わりを終えた彼の歌声に、ますます魅了されている。
 幼馴染の男を心酔どころか、崇敬対象として見ている。その事実は言葉にすると気味が悪く、安っぽい。この薄ら寒い気持ちは、柚良自身には伝えてはいない。気持ち悪いと一蹴されるのは目に見えているし、衛自身もそれは重々承知していた。
 衛はギターを置き、窓に近づいた。カーテンをチラリと開け、隣の家の窓を見る。そこが、柚良の部屋だ。明かりがついていた。どうやら部屋にいるらしい。
 柚良とはこの窓を通じて行き来することがよくある。互いの両親には内緒で行き来しては、夜中までゲームをしたり、音楽を聴いたりしている。それは小さい頃からの習慣のようなもので、今でも続いていた。
 見つめていたところで、都合よく柚良が顔を出すわけもなく、衛はカーテンを閉める。
 置いていたギターをもう一度抱えなおし、Cから練習を始めた。

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