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消防士×放火魔


 目の前で燃え盛る建物を見て、思わず笑みが溢れそうになる。それを隠すように、大河(たいが)は口にくわえていた煙草に手を添えた。
 この建物に火を点けたのは、大河だ。これで何件目だったか、と考えてすぐに止めた。小さいものや事故で処理されたものを合わせると、両手じゃ足りない。
 きっかけは、煙草の不始末だった。大河がゴミ捨て場に投げ捨てた吸殻が、ボヤ騒ぎになったのだ。最初は罪悪感で頭がいっぱいだったが、野次馬が集まる様子に気分が高揚した。その高揚感が忘れられず、大河は放火を繰り返している。
 大河は改めて、建物を見た。
 少し火が小さくなってきている。消防士が懸命に消火活動をしているのだから、当たり前だ。
 ふと一人の消防士と目が合った。
 ドキリと心臓が一際跳ねる。肝を鷲掴みにされたような感覚に、思わず眉間に皺が寄た。
 バレただろうか、と考えて大河は首を横に振る。
 こんなに人がいるんだ、たまたま目が合ったように見えただけだろう。自分が放火したから過敏になっているだけだ。
 大河が思考を巡らせているうちに、消防士はまた建物に向き合っていた。
 高揚した気分が冷めていく感覚に、煙草の煙を吐くのと一緒に溜め息を吐く。
 次に野次馬を後ろから見る。火事をケータイカメラで撮っている人がちらほらいた。
 一気に高揚感が冷め、大河は踵を返す。ジッポーの蓋を開けたり閉じたりを繰り返し、大河は歩き出した。

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