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人×ぬらりひょん


 住宅街に、ポツンと建った古びたアパート。ここは視える人間や妖怪の類いが住む不思議なアパートだ。普通の人には視えないらしい。
 そのアパートの3階。306号室に、俺とぬらりひょんであるノラさんが住んでいる。
 窓際に座り、外を眺めている。小さな体で、椅子に座っているもんだから、足が宙をブラついていた。膝の上には、どこから連れてきたのか猫が丸まっている。
 どこか似ている1人と1匹に、不安になって声を掛けた。
「ノラさん、柿食べませんか」
 ノラさんと猫が同時にこちらを振り向いた。
 警戒する猫に、ノラさんは苦笑して窓から猫を出す。一目散に逃げて行った猫に、俺も苦笑する。

「じいちゃんが、柿をたくさん送ってくれました」
 コタツの上に柿を置き、足を入れる。
「そうか。そういえば、雄介(ゆうすけ)の故郷は柿も名産だったの。勇雄(いさお)は元気かのう」
 懐かしそうにじいちゃんの名前を呼び、目を細めながらノラさんもコタツに入った。
「元気みたいですよ。この柿の収穫、じいちゃんがしたそうです」
 柿に視線を落とし、じいちゃんを思い出す。
 ――小さい時に両親を亡くし、母方の祖父母に引き取られていた。その祖父母の家に、ノラさんはたまに来ていた。
 ぬらり、ひょんと現れてはいつの間にかいなくなる。それがノラさんで、ぬらりひょんという妖怪らしい。
 じいちゃんは、野良猫のようだと言って、ノラと呼んでいた。だから自然と俺もノラと呼ぶようになった。
 家族のように居座る彼を、俺はもう1人のじいちゃんのように思っていた。
 そして高校3年生の春、じいちゃんが倒れた。
 命に別状は無かったものの、もうじいちゃんもいい年だし、ばあちゃんは、もう俺が中学の時には亡くなっている。心配で進路を進学から就職にすると言ったら、叱られた。
「いい大学に出て、就職しろ」
 いい大学出たって、いい就職先に行けるとは限らないのに。
 何度も説得を試みたが、じいちゃんは利かなかった。終いには、県外の大学に行け、とまで言われた。
 結局じいちゃんは、近くに住んでた母の弟である叔父さんの家に行くことになった。俺までお世話になるわけにはいかなかったから、完全にじいちゃんに外堀を埋めらた状態だった。
 こっちまで出てくるときに、ノラさんも一緒についてきた。
「甘いのう」
 口の中の柿を何度も咀嚼するノラさんを見つめ、口を開いた。前々から気になっていたことがある。
「ノラさんは、じいちゃんのこと、そういう意味で好きなんですか?」
 ノラさんは口の動きを止め、俺を見る。そして堰を切ったように笑い出した。『ノラさんは妖怪の総大将なの?』と聞いたときと同じように、腹を抱えて笑う。
 それに、俺はホッと息を吐いた。これは否定だ。
「そういう意味――がわからんが、友人じゃからな。好きじゃよ」
 目を瞑り、柿を咀嚼する。その表情からは感情を読み取れなかった。

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