3 翌日の昼休み。 満身創痍な結城が、矢内に話しかけてきた。目を見開く矢内に、側にいた矢内の友人たちは2人を交互に見る。 「矢内ちゃん、おはよう」 痛々しい顔をはにかませ、挨拶をする。 「お前、マゾなの?」 ため息交じりに、矢内が言う。結城はそれに首を振り、否定する。 「痛いのは大嫌いだよ。でもさー運命の人じゃん? キューピッドちゃんに相談したら、叱られちゃった。運命って言葉に甘んじてたら、駄目だって。努力しなきゃ駄目なんだって」 矢内は友人たちのきょとんとした視線を感じつつ、頭を抱えた。やっぱり、何を言っているのか解らない。 「お前ちょっと来い」 友人の視線に堪えきれず、矢内は結城の学ランの襟を掴み、引き摺るように連れていく。 結城が何事かを喚いていたが、それは無視だ。 「ぼ、暴力は反対だよ!」 慌てたように言う結城を人気のない廊下の壁に押し付けた。 「近付くなって言ったよな?」 「でも、ほら運命の人だし」 ああ言えばこう言う結城に、矢内は怒りを鎮めるように、息を吐く。 「百歩譲って、仮に、運命の人だとして、男だぞ? 俺のこと好きになれるの?」 百歩どころか、百万歩譲って、だ。そもそも、運命なんて信じていない。 矢内は頭を掻き、結城を見る。 「好きだよ。オレだって、ちゃんと考えたんだよ。矢内ちゃん男だし、オレは女の子になる気ないし」 結城は真っ直ぐ矢内を見つめ、続ける。 「夢見たの、半年前なんだ。この半年、考えて、矢内ちゃん見てきた結果だよ」 結城はポケットから小さな箱を取り出し、開ける。 「日本じゃ結婚できないけど、オレは本気だよ。籍に関しては、オレが養子になる覚悟もできてる。両親にも、カミングアウトした」 真摯に話す結城に、矢内は圧倒される。 「いや、あの、お前――バカじゃないの?」 たかが夢に、何を本気になっているんだろう。本当に、コイツはバカじゃないのだろうか。 矢内は頭を抱え、ため息を吐く。 何だか、頭が痛くなってきた。 「カミングアウトとか結婚の前に、普通告白とか付き合うとかじゃねぇの。いろいろすっ飛ばしすぎだろ」 呆れを通り越して、いっそ感心する。 「え? じゃあ、付き合ってください」 「いや、俺、男は無理」 結城が頭を下げ、片手を差し出す。昔テレビで見たような姿に、矢内は顔をひきつらせる。 「なんだよ! じゃあ、期待させること言わないでよー」 矢内の言葉に結城は、頬を膨らませる。 気持ち悪い。 「言ってねぇよ。お前、頭沸いてんじゃねぇの」 面倒くさそうに、矢内は返す。 「覚悟してね。運命なんだ」 ビシッと矢内を指差し、結城は言う。 「覚えてろよ」 雑魚キャラよろしく、お決まりの台詞を吐き捨て走っていってしまった。 矢内は再度ため息を吐いく。煙草を吸うために、内ポケットを確認して、屋上へと続く階段に足を向けた。 |