1 あれからどうやって家に帰ったか覚えていない。 気付いたら自宅の湯船に沈んでいて、慌てて湯から顔を上げた。 溜め息を吐くとそれが反響して耳に届く。更に憂鬱な気分になった。 あー止めだ。もうあの忌々しいことを考えるのは止めよう。 夢だ。悪夢だったんだよ。風呂場で寝てたんだ。そうに決まっている。帰りの記憶が無いのもその所為だ。 頭と身体を洗って、風呂場から出る。 脱衣所で着替えているとガラリ、と音を立てて扉が開いた。 「うわ。兄貴、先に入ったのかよ」 可愛くない妹が、俺の顔を見るなり顔を顰めて言った。 「水道代と電気代がもったいないから、私の後に入れって言ったじゃん」 「そのまま入ればいいだろ」 「はあ!? ねえよ」 ばっかじゃねぇの?なんて言う。 「あーはいはい」 リアル妹は全く可愛くない。可愛いわけがない。 それに、俺の妹が可愛いわけがない。ブサメンの俺の妹だぞ。可愛いわけがない。 妹の罵倒を華麗にスルーし、部屋に戻る。 ふとケータイを見ると、メールが着ていることを知らせるランプが光っていた。 受信BOXを見て、思わず眉間を顰める。 畠山孝文、と表示されていた。マジでか。 憂鬱な気分でメールを開く。 ――今日は驚かせてごめん。気持ち悪いよな。でも、本気だから返事は聞きたい。ゆっくりでいいから。待ってます。 待ってるって、返事は決まってるじゃないか。畠山だって、聞かずとも判りきってるだろ。 人が夢にして忘れようとしてんのに、なんなんだよ。勝手すぎるだろ。 人の恋路の邪魔ばっかしやがって。 ケータイを枕元に投げ、ベッドに倒れ込む。 ギシリとベッドが悲鳴を上げた。 [戻る] [しおりを挟む] |