泣き虫 | ナノ




「あっあのさ。桜木さんと何で別れたの?」
 漸く本題に入れた。
 畠山は眉間に皺を寄せ、溜め息を吐く。
「またその話?」
 これを話すために、一緒に帰ってるんだから当たり前だ。
 それ以外で、こんなイケメンと一緒に帰るか。
 畠山はもう一度、溜め息を吐く。
「もう、好きじゃないから」
 言って、畠山はまた溜め息を吐いた。
 そんなに溜め息吐くと幸せが逃げるぞ。
「てか、これは彩花とオレの問題でしょ。別れるのも付き合うのも勝手じゃん」
 確かにそうだ。だが、被害がこっちにまで来てんだ。二次被害だコノヤロー。桜木さんとの恋愛が始まる前から終わってんだ、畜生。
「うん。まぁそうなんだけどさ。桜木さんに変なこと聞いちゃってさ」
 俺が言うと畠山がえっ? と声を上げて立ち止まる。
 目が見開かれ、泣きそうな顔になった。
 止めろ、その反応。
「何聞いたの?」
 畠山の声が震える。
 だから、止めろ。それじゃあ、本当にまるで……
「俺のことが好きだから別れたとか。罰ゲームかなんかか? それとも別れるために、名前使ったのか? 何にしろ、迷、」
「違う。違うよ」
 迷惑なんだ、とは最後までは言わせてはくれなかった。
 泣きそうな顔をしながら、俺をまっすぐと見つめてくる。
「オレは本当に」
 止めろ、変なこと言うな 。
「田中のことが」
 それ以上言うな。
「好きなんだ」
 本当に、俺の事好きみたいじゃないか。

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