泣き虫 | ナノ




 結局あれから、桜木さんは戻って来なかった。
 桜木さんの後を追った女子は田中さん以外は戻ってきて、畠山を問い詰めていた。畠山はそのたびに面倒そうにしていた。
 最低な男だ。モテる男は違うな。禿げろ。
「田中、帰ろ」
 爽やかな笑顔を浮かべて畠山は言う。
 ぶん殴りたい。喧嘩弱いけど。
「わかった」
 とにかく、何のつもりか聞かなきゃならない。
 畠山と教室を出る。
「そういえば、家の方向一緒だっけ?」
 手始めに俺が問うと畠山は頷く。
「たまに田中見るし、一緒だと思う。田中大きいから目につくし」
 ああ、横に大きいもんな。
「そっか」
 さて、いつ本題に入ろう。
 チラリと畠山を見ると目があって、すぐに反らした。
  な、なんだ。気まずいぞ。
「あのさ、急にどうして俺と一緒に帰ろうと思ったの?」
 前を見たまま聞く。
 視線を感じるが気のせいだろう。
「えっ? あ、えっと田中と仲良くなりたくて」
 チラリとまた畠山を見ると顔が赤い。
 止めろ。桜木さんから変な事を聞いたせいで、何か……まるで。
 いや、ない。絶対ない。あってはならない。
 徐々に距離を取ろうと歩く度に離れようとするが、畠山は空気を読まずについてくる。
 なんなんだよ、こいつ!
「あっ田中、メアド交換しよ」
 言って、畠山はケータイを取り出す。
 俺もケータイを出す。
 赤外線通信とか、久しぶりにやった気がする。
 俺のケータイにイケメンのメアドと番号が登録され、畠山のケータイにはブサメンのメアドと番号が登録された。忌々しい。
「メールするね」
 なんて嬉しそうに笑う。
 だから止めろって。男相手にそんな嬉しそうな顔をするな。

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