2 「誰って聞いたら……田中、アンタだって」 「いやいや!田中とか他にいるじゃん。ほら、桜木さんとよく一緒にいる田中さんとか」 「だから、アンタなの!」 更にネクタイを引っ張り、睨まれる。 ちょっと待って!いろいろ整理がつかない。 なにか。男子の畠山は、男子である俺を好きで、女子の桜木さんを振った。 なるほど、わからん。 「男同士なんて気持ち悪いんだよ!」 吐き捨てるように言い、俺のネクタイを放した。 「ちょ、ちょっと待って! 何かの間違いだよ!」 あ? と桜木さんは眉を寄せる。 「ほら、罰ゲームとか! きっと『昨日はごめんね』とか言ってくるって」 「似てないモノマネすんな」 少し、元気になっただろうか? 「教室、戻ろう」 俺が言うと桜木さんは頷き、先に歩き出した。 「田中、ごめん」 ボソリ、と呟かれた言葉に俺は惚れ直した。やっぱり可愛い。リアルツンデレも悪くない。 教室に戻ると畠山が来ていた。こちらを見た瞬間、近づいてきた。 ほら、来た。 桜木さんの背筋が伸びる。 「田中、今日から一緒に帰ろ?」 声を掛けようとした桜木さんを通り過ぎ、俺に話し掛けてきた。 空気読め。 クラスの皆も驚いている。当たり前だ。 桜木さんは俺を睨むとスクールバックを持って、教室から出ていってしまった。それを何人か女子が追う。 「いいのかよ、お前も追えよ」 俺が言うと畠山は不思議そうな顔をする。 「なんで?」 なんでって。何言ってるんだろう、こいつ。 「彼女だろ」 「昨日まではね。もう別れたし」 教室がどよめく。 「もうこの話しはおしまい。じゃあ、一緒に帰ろうね」 畠山はそれだけ言い、自分の席に戻った。 何だそれ。 罰ゲームにしろ、別れたかったにしろ、俺を使わないで欲しい。迷惑だ。 これできっと、完全に桜木さんに嫌われてしまっただろう。思わず溜め息が出た。 [戻る] [しおりを挟む] |