泣き虫 | ナノ




「誰って聞いたら……田中、アンタだって」
「いやいや!田中とか他にいるじゃん。ほら、桜木さんとよく一緒にいる田中さんとか」
「だから、アンタなの!」
 更にネクタイを引っ張り、睨まれる。
 ちょっと待って!いろいろ整理がつかない。
 なにか。男子の畠山は、男子である俺を好きで、女子の桜木さんを振った。
 なるほど、わからん。
「男同士なんて気持ち悪いんだよ!」
 吐き捨てるように言い、俺のネクタイを放した。
「ちょ、ちょっと待って! 何かの間違いだよ!」
 あ? と桜木さんは眉を寄せる。
「ほら、罰ゲームとか! きっと『昨日はごめんね』とか言ってくるって」
「似てないモノマネすんな」
 少し、元気になっただろうか?
「教室、戻ろう」
 俺が言うと桜木さんは頷き、先に歩き出した。
「田中、ごめん」
 ボソリ、と呟かれた言葉に俺は惚れ直した。やっぱり可愛い。リアルツンデレも悪くない。
 教室に戻ると畠山が来ていた。こちらを見た瞬間、近づいてきた。
 ほら、来た。
 桜木さんの背筋が伸びる。
「田中、今日から一緒に帰ろ?」
 声を掛けようとした桜木さんを通り過ぎ、俺に話し掛けてきた。
 空気読め。
 クラスの皆も驚いている。当たり前だ。
 桜木さんは俺を睨むとスクールバックを持って、教室から出ていってしまった。それを何人か女子が追う。
「いいのかよ、お前も追えよ」
 俺が言うと畠山は不思議そうな顔をする。
「なんで?」
 なんでって。何言ってるんだろう、こいつ。
「彼女だろ」
「昨日まではね。もう別れたし」
 教室がどよめく。
「もうこの話しはおしまい。じゃあ、一緒に帰ろうね」
 畠山はそれだけ言い、自分の席に戻った。
 何だそれ。
 罰ゲームにしろ、別れたかったにしろ、俺を使わないで欲しい。迷惑だ。
 これできっと、完全に桜木さんに嫌われてしまっただろう。思わず溜め息が出た。

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