1 蹴られる、と思って目を瞑るが、なかなか衝撃が来ない。恐る恐る目を開けると顔の横に足があった。 俺は寝ているわけではない。立っている。つまり、それだけ脚を上げているということだ。 校舎裏という人気のない場所に女子と2人。 まさに青春っ!なわけもなく、女子――桜木彩花(さくらぎあやか)さんは何故か俺にキレている。 ことは数分前に起こった。 教室に入るなり、同じクラスだった桜木さんに話し掛けられ、ホイホイついていったらコレだ。理不尽すぎるだろ。 「あんま、調子のんなよ」 普段の彼女のイメージとは掛け離れた、低い声で彼女は言う。 いつ俺が調子にのったというのか。見に覚えが有りすぎてどれのことか判らない。 こんなデブでブサメンな俺が、学年一可愛い桜木さんを好きになってしまったこと? 桜木さんを見詰めていること? ――俺が言うとストーカーチックだが、ストーカーはしていない。ちょっと、見ているだけだ。 あれか、桜木さんでいろいろ妄想しているからか? いや、でも、そんなの男だったら皆そうだろ。 あっあれかな? 桜木さんと付き合っている学年一のイケメン――畠山孝文(はたけやまたかふみ)に心の中で呪っているからか? それとも今現在、パンツをチラ見していることだろうか? これは不可抗力だ。桜木さんが脚を高く上げてるから見えるんだ。改めてバランス感覚の良さに感心してしまう。 どれだろうと思案していると桜木さんは、俺のネクタイを引っ張った。 「昨日、孝文がいきなり別れようって言ったんだけど」 「えっ?」 思わず間抜けな声が出た。 だってありえない。うちの学年で公認カップルであるほど、2人はラブラブだった。 桜木さんがいつも畠山のことを愛しそうに、見つめていたのを知っている。 対する畠山だって、桜木さんを大事にしていた。 シャイなのか本人に言うのが照れ臭いのか、体育の授業は男子と女子は別々でやることをいいことに、幸せそうに桜木さんとのことをノロケていた。 俺は内心ずっと畠山禿げろとか唱えていたのだから、よく覚えている。それは、昨日もそうだった。 「他に好きな人出来たって言われた」 桜木さんはようやく脚を下ろし、俺のネクタイを引っ張ったまま俯く。 [戻る] [しおりを挟む] |