2 「本当に数日前までは、全然意識したこと無かったんだ。ああ、居たんだって、感じでどうでもいい存在だった」 それをわざわざ俺に言わなくてもいい。そんなことは判りきっていたことだけど、なんだか腹立つ。 そのどうでもいい人間をどうやったら好きになるんだよ。 「いや、むしろ嫌悪してた、と思う。彩花のこと気持ち悪い目で見てたし、正直鬱陶しかった」 畠山の足が僅かに震えている。 「彩花も気持ち悪がってたから、注意してたまに見てたら……」 桜木さん、気持ち悪がってたのか。そりゃあ、俺がチラチラ見てたら気持ち悪いかもしれないけどさ。 目で追ってしまうんだから、仕方ないじゃないだろうか。って言い訳だな。 「お前が彩花のこと、すっごい優しそうな目で見てるのに気付いたんだ」 サムイ、やめろ。こっち真っ直ぐ見んな。 俺は畠山から自分の影に目を向ける。 影は実体よりも背が高く、スリムだった。ダイエットしたら、背高くならないかなあ。 「田中ってこんな顔も出来るんだなって思ったら、目で追うようになってた」 畠山のはぁ、と息を吐く音が聞こえた。 「最初は気のせいだって思ったよ。でも、好きなんだ」 真っ直ぐ見詰められ、居心地が悪い。 スッと畠山の手が、俺の腕に伸びてきた。それを触れる前に払う。 「触るな」 傷付いた。そんな顔で俺を見ている。 鬱陶しい。 「返事、してやるよ」 自分でどんな顔をしているかは解らないが、口端は吊り上がっているのは分かった。 「気持ち悪い、二度と話しかけんな」 畠山を見詰め、吐き捨てる。 「病院でも入って治して貰ってこい、このホモっ!」 ホモは病気じゃないのは、解っている。ただ、コイツが傷付くならなんでもいい。 傷つけばいい。ドン底まで落ちればいいんだ。 汚物でも見るような目で畠山を見下し、唾を吐くように暴言を吐いた。 畠山は顔を真っ青にして震えてる。 自己防衛なのか、自分の体を抱くようにしている指は白くなるほど力が入っている。 俺はそれを無視して、畠山の横を通りすぎて家に帰った。 [戻る] [しおりを挟む] |