泣き虫 | ナノ




「本当に数日前までは、全然意識したこと無かったんだ。ああ、居たんだって、感じでどうでもいい存在だった」
 それをわざわざ俺に言わなくてもいい。そんなことは判りきっていたことだけど、なんだか腹立つ。
 そのどうでもいい人間をどうやったら好きになるんだよ。
「いや、むしろ嫌悪してた、と思う。彩花のこと気持ち悪い目で見てたし、正直鬱陶しかった」
 畠山の足が僅かに震えている。
「彩花も気持ち悪がってたから、注意してたまに見てたら……」
桜木さん、気持ち悪がってたのか。そりゃあ、俺がチラチラ見てたら気持ち悪いかもしれないけどさ。
 目で追ってしまうんだから、仕方ないじゃないだろうか。って言い訳だな。
「お前が彩花のこと、すっごい優しそうな目で見てるのに気付いたんだ」
 サムイ、やめろ。こっち真っ直ぐ見んな。
 俺は畠山から自分の影に目を向ける。
 影は実体よりも背が高く、スリムだった。ダイエットしたら、背高くならないかなあ。
「田中ってこんな顔も出来るんだなって思ったら、目で追うようになってた」
 畠山のはぁ、と息を吐く音が聞こえた。
「最初は気のせいだって思ったよ。でも、好きなんだ」
 真っ直ぐ見詰められ、居心地が悪い。
 スッと畠山の手が、俺の腕に伸びてきた。それを触れる前に払う。
「触るな」
 傷付いた。そんな顔で俺を見ている。
 鬱陶しい。
「返事、してやるよ」
 自分でどんな顔をしているかは解らないが、口端は吊り上がっているのは分かった。
「気持ち悪い、二度と話しかけんな」
 畠山を見詰め、吐き捨てる。
「病院でも入って治して貰ってこい、このホモっ!」
 ホモは病気じゃないのは、解っている。ただ、コイツが傷付くならなんでもいい。
 傷つけばいい。ドン底まで落ちればいいんだ。
 汚物でも見るような目で畠山を見下し、唾を吐くように暴言を吐いた。
 畠山は顔を真っ青にして震えてる。
 自己防衛なのか、自分の体を抱くようにしている指は白くなるほど力が入っている。
 俺はそれを無視して、畠山の横を通りすぎて家に帰った。

[ 11/12 ]

[*prev] [next#]
[戻る]
[しおりを挟む]
以下広告↓
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -