泣き虫 | ナノ




 前を歩く畠山の背中を見つめ、思わず溜め息が出た。
 コイツの所為で面倒なことばかりだ。
 コイツがいなければ、桜木さんにここまで嫌われることなかったんじゃなかろうか。
 別に告白する気があったわけじゃない。駄目なことは最初からわかっているんだから、するだけ無駄だと思っている。
 ただ、こんなことが無かったら今まで通り、遠巻きに桜木さんの笑顔見て癒されたりしていたわけだ。そう思うと畠山がいなければと思ってしまう。傍迷惑な奴だ。
「あのさ、田中」
 畠山が振り返ることもなく、話しかけてきた。
 俺は応えることもせず、畠山の言葉を待つ。
「オレ、田中のこと本気だからね」
 またその話か。いい加減にしてくれよ。
「お前なんか、大嫌いだ」
 少し前を歩く背中に吐き棄てる。
 畠山の肩が、ビクリと震えた。
「俺のこと好きとかありえないだろ。気持ち悪い」
 背中から、足元へと視線を落とす。
 歩調は二人とも変わらない。
「お前が俺の事好きになんなきゃ、うまくいってたんだ。桜木さんにこんな嫌われることなんて無かった」
 声が震える。
 興奮しているからか、息が上がる。
「お前なんて、いなきゃ、よかった」
 視界がゆっくりとぼやけていく。
 俺の歩調が少し遅れる。
「何で俺なんだよ。意味わかんね」
 もう完全に涙声だ。
 何でこんな奴に泣かされなきゃなんないんだ。くそ。ホント大嫌いだ。
「ホモとかホント気持ち悪い。死ね」
 畠山の歩調も遅れ始めた。
 もっと早く歩けよ。
 あと振り返るなよ。
「ホント、死ね。マジで何で俺なんだよ。俺じゃなくてもいいじゃん」
 畠山の足が歩を止めた。俺もその場に止まる。
「オレだって、わかんないよ」
 畠山の声も震えている。
 足がゆっくりとこっちを向いた。
「オレだって! わかんないよ!」
 怒鳴るように言われて、ビクリと肩が震えた。
 そんなに何度も言わなくても聞えてるよ。

[ 10/12 ]

[*prev] [next#]
[戻る]
[しおりを挟む]
以下広告↓
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -