1 前を歩く畠山の背中を見つめ、思わず溜め息が出た。 コイツの所為で面倒なことばかりだ。 コイツがいなければ、桜木さんにここまで嫌われることなかったんじゃなかろうか。 別に告白する気があったわけじゃない。駄目なことは最初からわかっているんだから、するだけ無駄だと思っている。 ただ、こんなことが無かったら今まで通り、遠巻きに桜木さんの笑顔見て癒されたりしていたわけだ。そう思うと畠山がいなければと思ってしまう。傍迷惑な奴だ。 「あのさ、田中」 畠山が振り返ることもなく、話しかけてきた。 俺は応えることもせず、畠山の言葉を待つ。 「オレ、田中のこと本気だからね」 またその話か。いい加減にしてくれよ。 「お前なんか、大嫌いだ」 少し前を歩く背中に吐き棄てる。 畠山の肩が、ビクリと震えた。 「俺のこと好きとかありえないだろ。気持ち悪い」 背中から、足元へと視線を落とす。 歩調は二人とも変わらない。 「お前が俺の事好きになんなきゃ、うまくいってたんだ。桜木さんにこんな嫌われることなんて無かった」 声が震える。 興奮しているからか、息が上がる。 「お前なんて、いなきゃ、よかった」 視界がゆっくりとぼやけていく。 俺の歩調が少し遅れる。 「何で俺なんだよ。意味わかんね」 もう完全に涙声だ。 何でこんな奴に泣かされなきゃなんないんだ。くそ。ホント大嫌いだ。 「ホモとかホント気持ち悪い。死ね」 畠山の歩調も遅れ始めた。 もっと早く歩けよ。 あと振り返るなよ。 「ホント、死ね。マジで何で俺なんだよ。俺じゃなくてもいいじゃん」 畠山の足が歩を止めた。俺もその場に止まる。 「オレだって、わかんないよ」 畠山の声も震えている。 足がゆっくりとこっちを向いた。 「オレだって! わかんないよ!」 怒鳴るように言われて、ビクリと肩が震えた。 そんなに何度も言わなくても聞えてるよ。 [戻る] [しおりを挟む] |