泣き虫 | ナノ




「意味わかんないこと言うからでしょ」
「意味はわかるだろ。他に好きな人が出来たって言ったら、誰? ってしつこく聞くから答えただけだろ」
 帰っていいだろうか。俺必要ないじゃん。帰りたい。
「だから意味わかんない。その答えが田中とかないでしょ」
 確かにそうなんだけど、なんだろ。この全否定された感じ。
「田中に失礼だろ」
 確かにそうなんだけど、お前が言うとなんか気持ち悪い。やめろ。
「あ、あのさ。俺帰っていいよね?」
 ピリピリとした空気の中、俺はよく頑張ったと思う。もう帰りたい。
「田中には、田中にはさ。返事を貰う前に、ちゃんと決着つけたいんだ。ちゃんと見ていてほ、」
「いや、何勝手、」
「はあ!? 何だよそれ」
 畠山の言葉を遮ろうとした俺の言葉まで遮られ、桜木さんが声を荒げる。
「何が決着だよ。終わってんだろ。もういいよ。男同士とか気持ち悪い!」
 桜木さんは傍にあったクッションを俺たちに投げる。
 ちょっと、俺関係あるけど無くない?
「もう帰ってよ。アンタなんか大っ嫌いだ」
 ベッドにあった枕で、畠山を何度も何度も叩く。
 畠山は部屋から出て行く。
 ワンテンポ遅れながらも、俺も出て行く。チラリと桜木さんを見ると目が合った。
「死ね」
 慌てて扉を閉めると扉に何かが投げられた音がした。
 死ねと言われるのは慣れているが、好きな人に言われると傷つくな。

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