2 憂鬱な気分のまま、教室に入る。 一瞬畠山と目があったがすぐにそらす。 そらした先に、桜木さんの席が目に入った。まだ来てないみたいだ。 「畠山、田中! ちょっと」 教室の後ろの出入り口で、田中さんが仁王立ちして呼ぶ。仁王像のようだ。――いや、般若かもしれない。 どっちにしたって、勘弁してほしい。 有無を言わさぬ態度に、俺と畠山は黙ってついていく。 周りがざわざわと俺たちを見て、何か言っているが気のせいってことにしておく。 もうHRが始まりそうなのにな。 空き教室に入り、座ってと顎で指示された。俺たちは黙って、それに従う。 「彩花から事情は聞いた」 田中さんは腕を組み脚を組んだ姿勢で、高圧的に言う。 「裕子には関係ないだろ」 負けじと畠山が食って掛かる。 てか、田中さんって裕子っていうのか。ややこしいから心の中では裕子さんと呼ぼう。なんて現実逃避する。 「関係ないよ。でも、どういうつもりか聞きたい」 自己満足か。 「どうもこうもない。彩花より、田中が好きになっただけだ」 アーアー聞こえない。俺には何も聞こえない。 「はあ? 男じゃん!」 ですよねー。何とか言って、目を覚まさせてやってくださいよ。 「だから?」 いや、結構重要ですよ。 「アンタ、本気なの?」 顔を顰め、裕子さんは畠山を見る。 「本気」 裕子さんの顔が歪み、侮蔑を含んだ目で畠山を見る。 当たり前だ。気持ち悪いもんな。 「じゃあ、彩花は男に、田中に負けたの?」 顔を歪め、声を震わせて裕子さんは言う。 桜木さんのことなのに、裕子さんが泣きそうだ。 「勝ち負けじゃないよ。気持ちの問、」 「もういい」 畠山の言葉を遮り、裕子さんは俺たちを睨み付け空き教室から出ていった。 俺は何もしていないんだけどな。 [戻る] [しおりを挟む] |