泣き虫 | ナノ




 憂鬱な気分のまま、教室に入る。
 一瞬畠山と目があったがすぐにそらす。
 そらした先に、桜木さんの席が目に入った。まだ来てないみたいだ。
「畠山、田中! ちょっと」
教室の後ろの出入り口で、田中さんが仁王立ちして呼ぶ。仁王像のようだ。――いや、般若かもしれない。
 どっちにしたって、勘弁してほしい。
 有無を言わさぬ態度に、俺と畠山は黙ってついていく。
 周りがざわざわと俺たちを見て、何か言っているが気のせいってことにしておく。
 もうHRが始まりそうなのにな。
 空き教室に入り、座ってと顎で指示された。俺たちは黙って、それに従う。
「彩花から事情は聞いた」
 田中さんは腕を組み脚を組んだ姿勢で、高圧的に言う。
「裕子には関係ないだろ」
 負けじと畠山が食って掛かる。
 てか、田中さんって裕子っていうのか。ややこしいから心の中では裕子さんと呼ぼう。なんて現実逃避する。
「関係ないよ。でも、どういうつもりか聞きたい」
 自己満足か。
「どうもこうもない。彩花より、田中が好きになっただけだ」
 アーアー聞こえない。俺には何も聞こえない。
「はあ? 男じゃん!」
 ですよねー。何とか言って、目を覚まさせてやってくださいよ。
「だから?」
 いや、結構重要ですよ。
「アンタ、本気なの?」
 顔を顰め、裕子さんは畠山を見る。
「本気」
 裕子さんの顔が歪み、侮蔑を含んだ目で畠山を見る。
 当たり前だ。気持ち悪いもんな。
「じゃあ、彩花は男に、田中に負けたの?」
 顔を歪め、声を震わせて裕子さんは言う。
 桜木さんのことなのに、裕子さんが泣きそうだ。
「勝ち負けじゃないよ。気持ちの問、」
「もういい」
 畠山の言葉を遮り、裕子さんは俺たちを睨み付け空き教室から出ていった。
 俺は何もしていないんだけどな。

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