3 柊くんのゲイ発言には、正直びっくりした。そりゃそうだよ。こんな女の子に苦労しなさそうなイケメンが、女の子たちに興味がないだなんて……。柊くんを好きだと言っていた同僚たちが頭を過ぎった。でも、まぁ、不思議と嫌悪感は浮かばない。自分とは無関係だとは思っていたけど、そういう人たちがいるのは知っていたし、ニュースで同性愛者たちのパレードを見たこともあった。私は知らないけど、昔ミュージシャンでゲイを告白した人がいたとか聞いたこともある。理由はわからないけど、気持ち悪いってほどではない。私には、理解は出来ないけど。 そんなことよりだよ。これはチャンスじゃないかしら。実は、お恥ずかしい話、私は一人暮らしが出来ない。自立してないってわけではないのよ。いや、出来ない時点でしてないのかもしれないけれど。だってさ、一人じゃ怖い夜ってあるじゃない! ホラー映画見た後なんて一人でいるなんて無理だってば! 怖くない? 窓の外に何かいたらどうするのよ。女の子一人暮らしって言ったら、一階はありえないじゃない? ありえないこともないんだろうけど、危ないから当然二階以上なのよ。なのに、何かいたら……だめ。想像しただけで涙出そう。って話がずれてるわね。まぁ、つまりそんなわけで……彼、柊くんとなら住めるよね? 男性だけど危険じゃないじゃない? それに男性と住んでたら、危険はないじゃない。 「あの、先輩……もう一回言ってもらっていいですか? よく聞こえませんでした」 さっきから敬語なのか、タメ口なのかはっきりしてよ。そう思いつつ、もう一度言った。 「一緒に住めるよね、って言いました!」 こんなこと、女の子に何度も言わせないでよね。 柊くんは目を見開いる。意味がわからないとでも言うような、なんともマヌケな顔をしていた。まぁ、でもそうなるのもわかる。ゲイを告白したら、一緒に住めるだなんて言われて、こうならない男性がいるなら見てみたい。ちょっと名乗り出て欲しいくらいだわ。あ、怒るのはなしね。怖いから。 「すみません、意味がわかりません。気持ち悪くないんですか!? なんで急に話飛んでるんですか!? こっちは、真剣に話してんのに」 だから怒るのはなしだってば。気持ち悪くないし、話は飛んでない。だって、私の中では当然の流れだもの。そう言うと眉を顰める。 「私ね、一人暮らしとか怖くて出来ないのよ。で、今日一緒に住んでたヒモ男に捨てられたの。住むとこなくて困ってたところに、柊くんのゲイ告白。チャンスだと思ったのよ。気分を害したのなら……ごめんなさい」 ゲイの告白と言った辺りから、柊くんの口端が引き攣った。本気で怒らせてしまったかもしれない。ちょっと自分本位だった。相手に承諾貰わなきゃルームシェアなんて出来ないじゃない。俯いて、柊くんの男らしい腕を見る。血管すっごい浮き出てる。 盛大なため息が聞こえた。 「いいですよ。言っておきますけど、オレ平気で男とか連れ込みますよ。あとから気持ち悪いって言ったって遅いんですからね!」 それだけ言うとプイとそっぽを向いてしまった。 あれ? いいの? 私の疑いの視線を感じたのか、柊くんがこっちを向いた。いや、目線だけこちらに寄越した。なに? とでも言うように、じっと見つめられる(いや、睨まれてる) 「……よろしくお願いします」 言って、正座をして頭を下げると柊くんも同じように頭を下げてる。 「こちらこそ、よろしく、お願いします」 口調はもう、怒ってはなかった。 [戻る] [しおりを挟む] |