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 ネカフェで偶然であった先輩を家に招待したまでは良かった。今日は独りで居たくなかったし、なんとなく先輩もそうなんじゃないかって感じて。オレが勝手に思っただけだけど。それに……あんまりってこともないけど、他のバイト仲間で一番しゃべった事がない気がして、親睦を深めようと考えた。それに、先輩は他の女の子とは違う気がした。自惚れてるわけじゃないけど、女の子からそういう目で見られているのは感じている。でも、先輩はオレに興味なさそうに、いつも仕事をしていて。ナチュラルメイクで化粧の匂いも酷くない。年齢より大人っぽい雰囲気があるし、たまに下手な男より男前だ。正直、知り合いの女の子の中で一番落ち着く。
 ただ、先輩は飲むピッチが早くて。何か悪い酔いをしている気がする。さっきから、変に絡まれる。
「わたしっ……軽い、女じゃない、のよっ!」
 先輩は何度も何度も同じことを繰り返す。だいぶ飲んでたみたいだから、出来上がっちゃったみたいだ。オレはわかってますよとテキトーに返しつつ、自分の目の前にあるビールをチビチビと飲む。
「柊くんっ……ひーらぎっ! ちゃんと、ききなさいよー」
 若干呂律の回ってない先輩はオレの背中を叩く。なにこの人、面倒くさい。聞いてるよ。さっきから同じことしか言ってないじゃない。
「ひーらぎくん。やっぱり、合コンなんかでっ……彼氏つくるべきじゃ、ないのよっ」
 今度は泣き上戸ですか。あーもう。オレは先輩にティッシュを差し出す。大体オレ合コンなんかで、彼氏なんて作らないよ。ドン引きでしょ。何しに来たのお前ってなるでしょ。まず、合コンなんて行かないし。
 思わずため息を吐くと先輩が不安そうに覗き込んで来た。
「私と飲んでても楽しくない? そんなにっ……わたし、女の子として魅力、ない?」
 言って本格的に泣き出した。え? 何? 急にどうしたの!?
 オレはどうしていいかわからず、手をアタフタと動かす。
「そ、そんなことないよ! 先輩、十分可愛いと思うよ?」
 思わず敬語が抜けた。
「うそだあ……だって、彼氏に振られるしっ……ひーらぎくん何もしてこないしっ」
 最後の方は空気の抜けた風船のように弱弱しかった。彼氏に振られてたのか。変な時に誘っちゃったかな。てか、オレが何もしないのは関係ないでしょ。最初からする気なんてないし。恋人いるって知ってるのに、どうしてそうなるのさ。
「彼氏は、見る目がなかったんだよ。オレが何もしないのは、ほら恋人がいるから」
 女の子に泣かれるのは、苦手だ。どうしたらいいのかわからない。女の子の扱い方なんて、わからない。困ったな。いつまでも泣き続ける先輩に、オレはどうしたらいいのかわからず、ただ見てるだけしか出来なかった。
 ひとしきり泣いた先輩は、ずいぶん落ち着いた。酔いも醒めたのか、今までのことを思い出してか俯いている。
「ご、ごめん。私、」
 口を開いたかと思ったら、また黙り込んだ。
 本当のこと、言ったほうがいいだろうか。そしたら、そんなこと気にしなくなるだろうか。
 こんなことを思ってしまったオレは、どうかしてるかもしれない。
「いや、こっちこそ、ごめん。……あ、あのね先輩。先に言っとくけど、不快な思いさせるかも。それと、どうしても気持ち悪かったら、言って。オレ、バイトやめるから」
 オレがそう言うとえ? と小さな声が聞こえ、顔が向く。
「先輩は、可愛いと、思うよ。オレ、そういうの良くわからないけど。オレじゃなきゃ、たぶん……ほっとかない。オレ、興味ないからわからないけど。あっ先輩に、てことじゃなくて、女の子に興味ないんだ。その、男が好きなんだ」
 先輩の目がゆっくりと見開く。オレは俯いて、先輩から目を離した。あ、終わったな。明日からまたバイト探さなきゃ。今度はどこにしよう。
 毎回このパターン。オレがゲイだってバレて居づらくなってバイト替えて。今回は、オレがバラしたんだけど。軽蔑したような、汚いものを見るような目でみられるのは、つらい。怖くて、顔が上げられない。
「……そう、なんだ。……なら、一緒に住めるよね」
 予想外の言葉にオレは弾かれる様に顔を上げた。先輩を見る。すっかり涙は引いていて、真面目な顔をしていた。

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