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 思わず、柊くんの彼氏だと思われる人を殴ってしまった。ここまで我慢したことを褒めてほしいくらい、私は今年で一番頭に血が上っていた。柊くんの喉からヒュッと悲鳴のようなものが上がったのが聞こえる。堤は何が起こったのかわかってないのか、目を見開いて私を見ている。
「あー勘違いしないでよ。柊くんのために殴ったんじゃないの。私がしたかったから殴ったの。怒っていいのよ」
 自分でもびっくりしちゃうくらい、低い声が出た。私、男役できるんじゃないかしら? 冗談だけど。
 あっ今更になってこの目の前の男が”彼氏”じゃなかったらどうしようという点に思い当たった。当たってると、いいな。もう、後に引けないもの。
「いきなり何すんだよ!? アンタには関係ないだろ」
 ようやく状況がわかったのか、多分彼氏な男が頬を押さえ怒鳴る。いや、この物言いからして彼氏だ。
「関係ないわよ? 殴りたかったから殴っただけよ」
 むかつくじゃない。こいつも怪我をしていたなら、私も殴ろうとは思わなかった。だってそれは男同士の”喧嘩”に女……いや、”喧嘩”に他人が口出しするのは野暮じゃない。まぁ、口出しした方がいいこともあるんだろうけど。けど、コレは”喧嘩”なんかじゃない。一方的な暴力よ。反撃してこない相手をここまで殴るなんて、許せない。勝手なのは重々承知の上よ。どうせ、下らない正義感ってやつよ。悪い?
「あの、とりあえず、上がりませんか?」
 睨み合いのピリピリした空気の中、それを破るように後ろで私たちを見守っていた(眺めていた?)柊くんが口を開いた。私たちは言われた通り、リビングに行く。ソファーには座らず、絨毯の上に正座する。
「二人とも落ち着いて、コーヒーでも飲んで話し合おうよ」
 何故、柊くんは第三者に徹しているんだろう。それは私がやるべきでは?
「いや、話し合うのは二人だからね? 私は殴ってそれで話は終わりだから」
 殴っている時点で話ではないという意見は受け付けません。キッチンに立つ柊くんをリビングに戻し、私はコーヒーを三人分淹れる。しばらく二人は黙っていたが、柊くんが口を開いた。
「ごめん」
 柊くんが小さく謝ると男は目を見開き、男も口を開いた。
「なんで、お前が謝るんだよ。謝るのは俺だろ……ごめん。その、俺、マミヤさんに嫉妬しちゃって。見苦しいのは、わかってるけど。何か、楽しそうにマミヤさんの事話してるから……ってマミヤさんが悪いってわけでも、柊が悪いわけでもないんだけど」
 ……私、関係ないけど関係あるじゃない! 何がアンタには関係ないだろ、よ。何なのよ。私なんて、女の子なんて眼中にあるわけないじゃない。ゲイなのよ? 初恋なんてシュンくんよ。男の子よ(初恋の話の時に聞いた)
「じゃあ、これで仲直りな?」
 割とあっさりと二人は仲直りをした。この二人はバカップルなんじゃないかしら。私も早く、恋人見つけよう。

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