3 朝起きて、鏡を見ると酷いくらい顔が腫れていた。あーあ、これ本当にオレ? そっと頬に触れると痛くて、若干涙目。どうしようコレ、隠し切れないよな。バイトどうしよ。転んだじゃ説明つかないよな。クビになったら嫌だなぁ。洗面台で唸っていると真宮さんが覗き込んでいるのが鏡に映った。鏡越しに目が合う。 「青痣、コンシーラーで消えるかしら?」 言って化粧品であろう白い物体をオレに渡す。 「コレで隈は消えるのよ?」 言ってオレの目の下の隈をコンシーラーとやらで消していく。何これ、すごい。感動をしているオレをよそに、小さな痣を消していく。青痣はほとんど消えたものの、腫れが気になる。 「んー腫れが気になるわね。柊くん今日シフト何時からだっけ?」 「午後から」 「一緒ね。ギリギリまで冷やしてみましょ」 早速ソファーに寝転んで、顔中を氷で冷やす。あー気持ちいい。 ギリギリの時間まで冷やすと朝よりは、よくなっていた。これくらいなら、浮腫んでいるということにできるかも、しれない。多分。 バイトに行くと案の定、会う人あうひとに説明を求められた。その一人ひとりに、昨日飲みすぎちゃってーっと苦笑して返していく。もうこの質問飽きました。すみません。 飲みすぎると尋常じゃなく浮腫む人という称号を一夜(いや、今昼だから一昼?)にして手に入れた。全く嬉しくないわけだが、自業自得だから仕方ない。そして……もちろんだが、この顔で接客などできるはずもなく。オレは今日一日厨房だった。店長からは、次飲みすぎたらお前アレだからな。と何をされるのか解らない脅迫をされた。アレってなんだ。 バイトが終わり、帰ろうと裏口から出ると堤が立っていた。思わず立ち止まる。すると後ろからついてきていた真宮さんが、オレの背中にぶつかった。何? と真宮さんがオレを見、堤を見る。堤は真宮さんを見て、眉を顰めた。堤は何も言わず、そこから立ち去ろうとする。 「待て」 犬にいうような、厳しい声で真宮さんは言った。そしてオレを押しのけ、堤にズカズカと近づき胸倉を掴む。えっ? オレと堤はほぼ同時に目を見開いた。 「ちょっと来なさいよ。柊くんも早くいらっしゃい」 有無をも言わさぬ勢いに圧され、オレたちは黙って真宮さんについていく。ついていくと言ってもどうやら部屋に帰るらしい。部屋に帰るまでの間、誰も何もしゃべらなかった。いや、そんな雰囲気じゃなかった。真宮さんが、キレてる。何故かは、わからない。いや、分かるけど、解らない。 部屋に入りドアを閉めるなり、真宮さんは堤を殴った。手加減なんて、一切してなかったように、見えた。 [戻る] [しおりを挟む] |