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「では、今日は此処まで」


教授の声で、張りつめた空気が緩んだ。
今のが、昼前最後の講義だ。
偉そうな声でベラベラ喋ってた教授がいなくなる時にはもう既に、数人の学生が外に出てしまっていた。
今日は、弁当が無い。
どうしようか。

「さやか、お前次入ってんの?」

隣に座っているさやかに声をかける。
ノートやテキストをしまい終えたさやかだが、弁当を此処で広げる気配は無い。
学食にでも行くのだろうか。

「私は、今日はコレで終了だ。この後用事があるのでな。
……何だ伊達。今日は弁当は無いのか?」
「ああ。作る時間無かった」
「そうか。誰かと食べる予定でもないのなら、学食に行ったらどうだ?なかなか美味いぞ」
「n〜……でも、混んでんだよなぁ…」
「人混みは苦手だったな。だったら、近くのコンビニだな」

チラリと腕時計を見たさやかが、そろそろ行く、と言って出て行こうとするので、俺も一緒に講堂を出た。
キャンパスを縦に突っ切る大通りをさやかと共に通りすぎ、校門で別れた。
どうしようかと思ったが、鞄が邪魔だったので一度サークルの部室に寄った。
数人の先輩が「おー」なんて腑抜けた声であいさつしてきたのに同じように返して、財布と携帯だけを持ってコンビニへ。
何処で食べようか、なんて考えながらドアを開けて店内に入った時。
明るい昼の日が当たる窓の目の前で、雑誌に夢中のお前を見つけた。

「ぁ……」

思わず出てしまった声。
聞こえていないと思ったのだけれど、気付かれてしまった。
恥ずかしくて、身体が熱くなるのがわかった。
どうか、身体の中だけで止まってくれ。
顔まで熱くなったら。紅くなったら。
今、口から飛び出てどっか行きそうなくらいに暴れてるこの心臓が。お前にくぎ付けになってるこの目が。
全部全部、ばれてしまうから。


ばれたって、言えないだろう?


太陽にキラキラと照らされるお前が、まるで天使とかみたいな神聖なものに見えた。
常人は近付いては行けないような、そんな人間離れした美しさをお前に感じた。

だなんて。









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