アンタのいない世界なんて有り得ない。
アンタが俺の傍にいない世界なんて、そんなの幻だ。
アンタが俺を見ない世界なんて・・・イラナイ。
好きなんだ。アンタの事。
好きなんだよ。
「ねぇ、わかってる?俺もアンタも男なんだよ。そんな対象として見るわけないでしょ?」
お前の言ってる事は正しいよ。
嫌悪に歪んだお前のその表情も。
全部、正しいよ。
お前は健全で正常な青少年。
美しき世界に染まった、美しき常識人。
俺を踏み付けて行く大人達や、蔑み馬鹿にするクラスメイトと同じ世界の住人。
わかってるよ。
受け入れられない事くらい。
俺はこの世界では生きられない異界人で、怪物で・・・汚らわしきバケモノ。
真っ黒どころかヘドロを纏った俺が、真っ白なお前に何だかよくわかんないけど、物凄くゾワゾワと嫌悪を呼び起こす感情を覚えた。
それはきっと、俺とはもう、冥王星から太陽までよりももっともっと離れてて、0.000001パーセントも混ざる可能性が無かったはずの、美しくて綺麗な感情。
混ざり合ってしまったこの悲劇を何と呼べるだろう!?
黒の中に一点だけ入り込んでしまった白を、どうしたら消せるだろう!?
「もういい?次の授業間に合わなくなったら困るし、もう行くから」
バタン、
冷たい風を置いて、お前は行ってしまった。
違うだろ?
授業に間に合わなかったら、なんて嘘。
だって予鈴まではあと10分以上もある。
お前の教室は、そこの細い階段を下って左側5番目だろ?
全然余裕なんだ。
それくらい知ってんだぜ?
言い訳なんてすんなよ。
お前は行かなきゃならない。
あんな男に媚びばっか売ってる、いかにも軽い女の元に。
戻らなきゃいけない。
そうなんだろ?
俺よりもずっとずっと大事で、ずっとずっと綺麗な女の元に。
だから。
お前は気付かない。
俺の中の黒くてドロドロしたものが、
一点しかなかったはずの白に侵されて、
その色を失い、
俺を消して行っている事に。
お前は気付かない。
もう俺の中に俺は存在していない事に。
黒はもう、白に染まりきってしまった事に。
お前は気付かなかった。
そしてこれからも、気付く事はない。
俺がお前をこの世界でたった一人愛して逝った事に。
アンタのいない世界なんて有り得ない。
アンタが俺の傍にいない世界なんて、そんなの幻だ。
アンタが俺を見ない世界なんて・・・イラナイ。
それならいっそ
消してしまえ、そんなセカイ
fin
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