キッ、キッ・・・
雨の音にかき消されそうな程に小さな、金属の音。
通り過ぎようとした公園の木の間から、僅かに見える人影。
白いワイシャツに、黒のスラックス。
制服姿の・・・彼。
「政宗!!」
じっと黒い空を見上げている彼。
傘は家に置いてきちゃってるんだから、当然の如くびしょ濡れで。
ブランコに座ってただ、空を見上げてた。
「心配したんだよ?」
反応を返さない彼の見ている空を、傘で視界から消した。
「・・・さすけ」
「うん。帰ろ?こんな濡れて・・・風邪引いちゃう」
俺を見た彼の唇は、紫色に変色して。
身体も、少しだけ震えてて。
寒いって、訴えてる。
そっと手を差し伸べてやると、素直に冷たくなった手を乗せて、立ち上がる。
そして。
ギュッて、俺に縋りついてきた。
「どうしたの」
「・・・」
何も言わない濡れた頭を、撫でる。
それだけで伝わってくる、気持ち。
不器用で繊細な彼の、吐き出せない思い。
「独りじゃ、無いよ。もう政宗は、独りじゃない。俺が、いる。
泣きたいときは泣いていいし、何か言いたい事があるんだったら、言っていい。
それくらいで、俺が政宗嫌いになったりなんて、しないんだから」
ホントは、受け取るはずだった家族愛。
政宗には、与えられなかったもの。
ずっと一人だった彼は、人とかかわるのが苦手で、臆病になる。
自分の気持ちを、言えなくなる。
言って嫌われるのを、酷く怖がってる。
だけど、言えない気持ちは消えたりしない。
政宗の中に段々溜まっていって。
やがて、堪え切れなくなる。
きっと、そんなときなんだ。
政宗がこうやって、家出するのは。
「ね。大丈夫だよ・・・。だから、帰ろ?」
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