ガシャーンって、派手な音がした。
「・・・またやってんの・・・?」
音源は、いつものようにお隣さん。
で、俺の好きな人。
「おーい」
「あ、」
「・・・また、派手にやったもんだねぇ」
鍵がいつも開きっぱなしなお隣に入ると、ビックリしたような目でこっち見てるお隣さんと、壁の傍に落ちてる、割れたマグカップが目に入った。
カップは粉々に割れているけれど、中には何も入っていなかったようで、カップの破片以外は落ちていなかった。
「何してんの」
「見りゃわかんだろ?カップ割った」
「それはわかってるって。何で割ったの」
落としたんじゃないでしょ?これ。
明らかに意図的に割ってるよね。
・・・俺の部屋とアンタの部屋の境目の、薄い壁に叩きつけてさ。
夫婦喧嘩でキレて、夫の毎日使ってるカップ投げつけるみたいに。
わざとだよね、これ。
「・・・大事だから」
「は?」
「大切だから、割った」
言うと彼は、一枚一枚丁寧に、壁の近くに無残に散っている破片を集めた。
手が切れるのも気にせずに。
愛おしげな目つきで。
確かあのカップ、親代わりの人がくれたって言ってた気がする。
お隣さんはその人と居る時、凄く幸せそうな顔をする。
きっと彼は、好きなんだ。
大好きなんだ、あの人が。
だから・・・。
「なんで、大事だったら壊しちゃうの?」
どうして壊すの?
この前もだったよね。
その時は確か・・・そうだ、写真立て。
例のあの人とお隣さんが仲よく写っている写真が入ってた、凝ったデザインの写真立て。
その前はお皿。
その前は・・・。
もう、何度目だか分かんないぐらい。
お隣さんは、壊してる。
その度に答えは
『大切だから』
ねぇ、どうして?
- 58 -
[*前] | [次#]
ページ:
|