ベッドに半身を起して窓の外を見る。
それが、政宗の日課。
他には、売店にちょっとした飲み物とか買いに行ったり、屋上に上ってみたり。
・・・脱走したり。
「もー・・・何処行ったかな・・・」
昼。
ご飯を持って政宗の部屋に行くと、居なかった。
屋上かと思って行ってみても、いない。
売店にも、今日は来てないという。
という事は。
「何ですぐ脱走するかな・・・」
政宗の行くあてなんて、見当もつかない。
何処に行ったんだろう?
この前は確か、近くの浜辺にいた。
そこに行っても、居ない。
その前は、本屋。
居ない。
その前は、その前は・・・。
思い出して行ってみるけど、政宗の姿は何処にもなかった。
一旦病院に帰り、居なかった事を伝える。
緊急でナースや看護師が数名、招集された。
「伊達君の行きそうなところ、他にある?」
看護師長が聞くけど、皆首を振る。
「伊達君、あんまり自分の事って話してくれないから・・・」
そうなのだ。
政宗は、あまり多くを語らない。
基本的に寡黙な方だからあまり喋らないんだけど、自分の事はもっと話さない。
「猿飛先生が気付いてからもう、2時間以上・・・」
一体何処に、行ったのか。
何時もなら、気まぐれに行って、気まぐれに帰ってくる。
だけど今日は、帰ってくる気配もない。
「・・・」
「・・・小太郎?」
「・・・・・・・・・」
「そっか!!行ってみる!!!」
俺は、もう一度コートを着て走り出した。
政宗は、静かにたたずんでいた。
ただただ、立っていた。
「寂しかったの?」
声をかけると、政宗はゆっくりと振り向いて困ったように笑った。
「見つかっちまったか」
「うん。ねぇ、寂しかったの?」
「・・・そうかもしれない」
楽しそうな笑い声。
生活音。
政宗はそれを聞きながら、そっと目を閉じて、微笑んだ。
「小太郎がね、きっと此処だって教えてくれたんだ」
「・・・何で、わかったんだろうな」
「寂しそうだったから、って言ってたよ」
「ンな顔してたのか?俺」
「わかんない。ねぇ、帰りたかったの?」
「さぁな」
家の前。
入らずに、そこにたたずむ政宗。
帰りたい。
そう思っていた事は明白なのに、彼はそれでも強がる。
「なぁ」
「何?」
「俺、アンタにやってほしい事あんだけど」
「何?叶えるよ、仕事だから」
「・・・二言はねぇな」
「うん。俺に出来る範囲なら」
政宗が、にやりと笑った。
なんだか嫌な予感がする。
「kiss me please」
「・・・は?」
「だから、kissしてよ、センセ」
「あのね、」
「二言はねぇんだよな?」
はめられた。
完全にはめられた。
「・・・目、閉じて」
「n」
「・・・はぁ」
わざとらしく溜息をついたのは、せめてもの抵抗。
誰も周りに居ないのを確認して、俺は彼に口づけた。
fin
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