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久しぶりにあったかと思えば、部屋に連れて行かれ唇を塞がれた。
お互い大学受験を控えた身であり、どちらからともなく会わずにいたから、およそ2ヶ月ぶりの彼の体温。
…そんなに自覚は無かったけれど、会えない時間はやっぱり寂しかったみたいで、知らず知らずの内に自分から彼の背に手を回していた。
ぎゅっと抱き締めれば抱き返してくれるその腕が好き。温かい手のひらも好き。
眼鏡のレンズ越しの瞳も、見た目以上に柔らかい黒髪も。
そこまで考えて、確実に2ヶ月前より愛しさが募っている自分に驚いた。
何、これ。すごく恥ずかしい。
その間も今吉は角度を変えて何度も何度も口づけてくる。
気付いてしまってから、余計に意識してしまって顔が湯だったみたいに火照っているのが分かった。
─変に意識しないように、と瞼を下ろし感覚だけに頼ろうとしたのは間違いだった事を後から知る。
私が閉じたのを見計らって、頭を一撫でした彼は、手のひらを私の顔を支えるために使うことにしたらしい。
クイ、と顎が軽く持ち上げられる。
息づかいが聞こえて、とても正気でいられないような距離に彼がいるのが分かっていたから、目は、閉じたまま。
「─んっ!……」
触れるだけだったさっきの口付けとは違って、呼吸をさせないような深いもの。
薄く開いた唇の隙間から今吉の舌が入ってくるのが分かった。
生暖かいそれは歯列をなぞり、私の舌を捉えて絡まる。視覚からの情報は遮断されているから、よりリアルに彼を感じて。
「…っ…ふぁ…ん」
酸素が足りない。
そうも頭の片隅でしか思えない程に、心の全てを彼に捕らわれ、そして甘すぎるような口付けを施されていた。
─終わりが見えたのは、2人ともの息が乱れて私の頭がぼうっとしてしまいそうになった時。
「ぷはっ…」
サラリと彼の前髪が私の頬を掠めたかと思うと、唇を離した。
ツゥっと口の端を溢れた唾液が伝う。
それを舐めとって、今吉は再び私を正面から見据えた。
「………?」
なに、と聞こうとしてもまだ息が整わなくて声に出ない。ならばと首を傾げれば、
「…きや」
何かが聞こえた。けれど小さすぎて、意味を理解できるには至らない。
「え、何?」
なんとか落ち着けてそれだけ問うと、
「ワシ、やっぱ笠松の事めっちゃ好きやわ」
そう、言われた。
「……っ…!!」
恥ずかしい、嬉しい、泣きそう。
なんだか色々な感情が一気に溢れ出た。
…でも口を開けばきっと可愛くない事しか言えない。
だから─
「んっ!?」
今吉の唇に一瞬だけ、自分のそれを重ねて驚愕に目を見開いている彼の耳に、覚悟を決めて二文字だけ囁いた。
「すき」
甘くとろけて紡ぐ(それはキスと何物にも代え難い愛の言葉)