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彼・・・黄瀬涼太さんの足はもう二度と元の状態には戻らないかもしれません。

よくて、日常生活がこなせる程度。スポーツ等は諦めた方がいいでしょう。

そう告げた医者は痛ましそうに眉を寄せた。だからかは知らないが怒りはわかなかった。ただ、自分の事でも無いのに悔しくて虚しくて、泣き叫びたくなった。

なぜ、アイツがバスケを辞めなければいけないのか。

理解できているはずのその問いを、何度も何度も自身に投げかけた。

ー俺は、どうしたらいい。黄瀬のためにできる事はなんだ。むしろ、どんな顔をして会えばいい。

揺らぐ精神を縛り上げたのは最後に、と医者が残した言葉だった。

黄瀬さんの今の状態で、この事を告げればどうなるか分かりません。あの精神状態で聞けば最悪、自殺や自傷行為が増えるなどのデメリットがあります。

よく、お考えください。


その言葉には何も返さなかった。ー否、返せなかった。診察室を出る前に振り返り頭を下げて礼を言う。

そこから、俺はその時間の事を忘れた。うっかり口を滑らす事の無いように、記憶を奥底へ閉じ込めてしまえと自分に念じた。


黄瀬の足が治らないかもしれないと言う事実を俺は知らない、聞いていない。医者は俺を呼んでいない、と。


診察室から出たあと、黄瀬は何の話だったんスか?と尋ねてきた。

別に対したことじゃねぇ。お前の足へのテーピングの巻き方とかそんなんだよ。

ほんとッスか?俺ら仮にも運動部なんだからテーピングくらい自力で出来るようになってんのにね。

さも可笑しそうに黄瀬は笑う。それにつられて俺も笑みを浮かべた。




****




ふわり、とした浮遊感のあと意識が現実へと戻ってくる。

なぜ?

忘れようと努めて、それが叶って今の今まで、ちらりとも表れなかった記憶がフラッシュバックしたのか。

と、下から袖を引かれた。

「青峰っち…?」

ーあぁ、そうだ。確かこいつが聞いてきたんだ。


『俺の足はちゃんと治るんスか?』

って。

それでその答えを探すうち、あの記憶が浮かんだんだ。

戸惑う心は押し込めて、いつも通りの顔を作るとストレスなのか以前より少しだけ艶の失われた黄瀬の髪を撫でた。


そしてもう一度誓う。あれは絶対にこいつには伝えないと。

軋む心臓は無視して、先程浮かんだ数十分間の記憶を奥へ、奥へと沈める。


ー 何も知らなくていい、現実は思うよりも残酷で冷たいものだから。

ただ、生きていれば失われた希望でさえいつか光を取り戻すだろう。






「治らねぇ訳がねぇだろ?…とりあえず、今日はもう寝ろ」

撫でていた手のひらをそのまま瞼の上へ移動させ、半ば強引に目を閉じさせると耳元で小さく“おやすみ”と呟いた。
















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