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私が一位のまま、グラウンドに入る。ここをあと一周しなければいけなくて、まだまだ気は抜けない。
300mのトラック。
頭の中で残りの距離を測る。
後ろはかなり近い。すぐさま横に並ばれそうなくらいに。
最後の直線に入った。後、20mだけ。もう彼はすぐそこにいる。更にペースを早め、ゴールまで突っ切ろうとした。
─瞬間、頭に激痛が走る。ガンガンと釘を直に打ちつけられているような、そんな感覚。ぞわりと背を駆け上がる寒気にも襲われ、頭を抱える。
「黄瀬っ!」
遠くで青峰っちの声が聞こえる。あれ、なんでこんなに遠いんだろう。たかだか10数mの筈なのに。
痛む頭とまとまらない思考でそこまで辿り着けば、横をあの彼女がすり抜けた。
(ダメだ、)
首位争いは私達2人だけだったらしく後続の走者はまだグラウンドに入って来ていない。
だから、せめてと思うように動かない足を前へ前へと繰り出して青峰っちの元へ近づく。
その過程で涙が溢れたのは何だったのか自分でもよくわからない。ただ悔しさと申し訳なさがそうさせた。
「黄瀬」
青峰っちの声が聞こえて襷を手渡す。
「ごめんなさい、青峰っち…」
見上げた彼は怒るでも笑うでも無くただ私を安心させるように一瞬だけ笑うと、
「大丈夫だ、任せとけ」
俺が負けるわけねぇだろ?
その言葉を聞いて安堵すると私の意識は闇へと落ちた。
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