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校門を抜けたあたりで自然と掴んだ黄瀬の右手。

ここにいる事を確かめるように、しっかりと握りしめた自分と比べたなら華奢すぎて、折れてしまいそうな白い手のひら。

この存在を傷つける事は許さない。

先ほどそう宣言した。

可能ならば、あの女だけで無く世界に聞かせたかった。

コイツは俺のモンで、俺はコイツのものだって事を。

─そんな、留まる事を知らない独占欲。

自分自信にあきれ、今までの全力疾走の疲れまでどっと押し寄せてくる。

何しろあの時は必死だった。

きっと最高速を更新していたに違いねぇ。

そんなどうでも良いことに頭をやっていれば、不意に声があがった。

「あ、あの青峰っち!どこ、行くんスか…!?」

振り向けば未だに不安そうな黄瀬の顔。

悪ィ、そんな顔してんのも全部俺のせいだよな…。

心中、盛大に顔をしかめて…それは表に出せば彼女が余計に苦しむから、と言う気遣いの上。

「俺ん家。詳しい事は着いたら全部言ってやる」

伝えて、すぐさま赤司にメールした。


<あの女マジうぜぇ
黄瀬泣きそう
取り敢えず仕返しよろしく>


送ってすぐ。それこそ一旦閉じようとする前に返信を受信して開けば、

<僕を誰だと思っているんだ?
それは…一生分のトラウマでは足りなさそうだな
みんなにも言っておく>

あの笑みが浮かぶ彼らしい文章。パタン。今度こそ携帯を閉じてさっきと同じように無造作にポケットへと押し込んだ。

家まで、後300m。




* * * *




俺の部屋に来たときは絶対と言って良いほどに黄瀬はベッドの淵へ腰掛ける。

これが常ならその隣か床へ寝転がるが。どうしたってそれはおかしい。

普段めったに使わない勉強机の椅子を、きゅるきゅるキャスターを鳴らしながら彼女の正面へと連れて行く。

それにドカッと腰を下ろし、黄瀬の蜂蜜色の瞳がこちらを見たのを察して語り出した。

一回家に帰ってからの一部始終を。




* * * *




殆ど話し終えた時に立ったのは無意識だった。けれどもそこから先は流れるように体が動く。

カタン。

主を失った椅子がくるくる回るのが感じられたが振り向きなんてしない。

それ程までに脳内は腕の中のコイツでいっぱいだった。

こんなので受けた痛みが和らぐなんて露ほども思わない。けれど言わずにはいられなかった。これだけは。

「悪ィ」

謝罪とほぼ同時に静かに、ことを鎮めるかの如く降り出した雨は土をぬらし潤いを与えていく。

ごそっと腕の中の黄瀬が動く気配がして耳に直接疑問が投げかけられた。








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