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「悪ィ」
そのとても静かな謝罪は、夕立が顔を見せた外のうるさすぎない雨音と一緒に私の脳内へ落ちていった。
彼の腕の中、体をよじって首だけをそちらに向ける。
「何で…青峰っちが謝るんスか?」
彼に非はない。悪いのは迂闊だった自分なのだから。
質問にそれを含ませると彼は私を抱く力を強くした。…恐らく、無意識のうちで。
「俺は、お前を守りたい」
お前が、弱くないことも、ただ守られてるばっかの女じゃねぇことも、俺が一番良くしってる。それも含めて好きになった。
─けど。
今までにお前が受けた痛みを貰うのは不可能だからせめて、これからは。降り注ぐ火の粉からは、守りてぇ。
そう、彼は絞り出すように言った。
* * * *
ごめんなさいッス、青峰っち。私は貪欲だから、傲慢だから。
例えアンタの隣にいることが不自然で、釣り合わないとなじられても、そこを離れる気なんか毛頭なくて。
いつまでもいつまでもその場所を欲しがってしまうんス。
─屋上で彼女に貶された時、本当に怖かったのは写真じゃ無いと今考えてみれば思う。
多分、こんな風にアンタを求めてしまう自分が嫌われるのでは無いか。それを一番不安に感じた。
けれど彼はそんな私をも全て包み込んで、"守りたい"とまで言ってくれた。
「お願いしても、いいんスか…?」
おそるおそる問うと、当たり前だろ。そう笑われた。
ねぇねぇ、藍川サン。貴女には私達の仲には踏み入れないの。
越えられない境界
あああと交わらない平行線。 (ふたりのせかいはまるで
"聖域")
next*あとがき
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