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「誰にでもってなんなんスか」
この容姿だ。入学当初からの陰口で裏では体を売ってるだとか、男をたぶらかして遊んでる、なんて言われもした。
けれど生憎私は生まれてこの方青峰っちにしか抱かれた事がない。心底不愉快で眉間に皺を寄せた。
「此之伊先生、藤枝先生、高嶋先輩、紫丞先輩、上尾先輩、久瀬くん、浪原くん、徳沢くん…」
つらつらつらつら彼女の口から名前が溢れている。
その名のほとんどがバスケ部に関係のある人ばかりで、私も知らないなんて嘯(うそぶ)けない。
─と。更に4、5人名前を上げるとそこで一旦言葉を切り、女は悠然と微笑んだ。
「こんなこと、青峰君がしったらどうなるのかしら。楽しみね」
「…何した」
その意味ありげな言葉に思わず一段落とした声でとうと、
「別に?口伝てで言ったのと、何枚か写真バラまいたくらいかしら」
また、あの吐き気がするような笑顔で彼女はそう言った。
「写真?」
なんで実際ヤってないのに写真があるのか。その答えに私は絶句した。
「合成よ。貴女が誰ともヤってないくらい知ってるもの。パソコン詳しい奴に頼んだら喜んでやってくれたわ」
「合成に、青峰っちは騙されるんスか?」
仮にも、お前が好きになったあの人が。私の愛したあの人が、そんな単純な事に気付かないだろうか。気づいて欲しい、そう思わずにはいられない。
「ふふ、何言ってるの?青峰君に直接なんて渡す訳無いじゃない」
「青峰君のクラスに私の元カレがいて最大限に利用させて貰ったわ」
「青峰君のクラスの男子全員がこの写真と噂を持ってる」
「──なっ!!!」
最早言葉にならない。何も言えない。この女ならまだしも、クラスメイトから聞けばいくらかの信憑性も生まれ、本気にしてしまうかも知れないのだから。
「どうする?それこそ誘惑して取り返すの?」
ふふふふふ、 笑う彼女の目はどこか狂気じみていて。見ているこちらを怖気立たせる。
─その時、背後のドアの錆び付いた音が聞こえた。
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