笑い合えたら

体に付いた血を拭うこともせず、闇夜をただ走る。
ばさばさと風になびく外套が今日はやけに煩く聞こえた。
不意に足を止めると水溜まりに写った狐の面が目に入ってきた。
その面も、今は多少血に汚れている。

(…本当、こうして見ると化け狐だな。)

面の下の表情が少し、曇る。
フードを深めに被り直し、再び地を蹴った。





「よっ、おはよう。」
「おっす、カカシ先生!」
「………遅いわ、」
「何言ってんだよ、サクラちゃん!いつもの事だろ。俺たちが大人にならねぇとカカシ先生、駄目な大人が他から見たらもっと駄目な大人に見えちまうってばよ。」
「…先生、泣いていい?」

今日も第七班で任務だ。
よよよ、と泣く振りをするカカシ先生はほっといてサイとサクラちゃんで先に行く。
それでまた泣く振りをするカカシ先生。
馬鹿やって、騒いで、カカシ先生とサクラちゃんとサイがいる。
それだけで今の俺には十分過ぎるのに。



いつかの任務の帰り、

「俺はね、ナルト…お前が好きだよ。」

擦れた声でそう真剣な表情で俺に告げたカカシ先生。
嘘、じゃないことは分かった。
だからこそ、体が震えた。
嫌悪感じゃない、それはずっと皆を騙してた罪悪感からくる震え。
だから、俺は皆が好きだと言う笑顔でこう答えた。

「カカシ先生、俺ってば先生もサクラちゃんもサイも、イルカ先生も好きだってばよ?」
「………はは、そうね。」

ごめん、ごめんなさいそんでありがとうカカシ先生。
分かってるんだ、その先生好き、の意味なんて。
でも俺はそれには答えちゃいけない、答える資格なんてないってばよ。だってさ、俺は ―





「任務完了致しました。」
「そうかご苦労だったな、今日はもう休めナルト。」
「……綱手様、」
「別に構わんだろう。」

暗部で一、なんて誰が言ったのか未だ空席の暗部総隊長の座に俺を座らせようと暗部内は必死だ。
だから、俺は第七班に戻ってこちら側の仕事を減らした。
ただ、それだけ。
でも、本当はまた皆で任務したりしたいなんて思った。
サクラちゃんとカカシ先生と。



家に帰って血で汚れた体を洗う。
俺にはカカシ先生に好き、って言ってもらえるような奴じゃない。
だってこんなにも血に汚れてる。
毎日毎日、翌朝のカカシ先生との任務で血の匂いが先生にばれない様に執拗に体を洗うのが日課なんてさ。

「…カカシ先生ぇ、」

先生の名前を呼んで、目をぎゅっと閉じる。
目から流れる涙を誤魔化すように頭からシャワーを浴びる。

本当は、好き、大好きなんだカカシ先生。
あの時は素直に嬉しかった、でも同時に先生が好きな俺はこんな血で汚れた俺じゃないと分かった、ううん、最初から分かってたけど認めたくなかった。
だから、誤魔化した。
明日から、また笑えるかな…
嘘の笑顔でも本当の笑顔でも、もうどちらでもいい。
ただ、カカシ先生と、皆と、笑ってられるのなら ―



終わり

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