初戀の萌し・7

はぁぁ……今日は雨。
あれから半月、私は外出をしていない。危ないから止められてるせいもあるけど、大久保さんを怒らせた日から気持ちが沈んで、出掛ける気にはなれなかった。大久保さんが帰った後、皆が慰めてくれたからヘラヘラ笑っていたけど、心は重くなるばかりだ。
あれから、大久保さんも此処へは来ていない。本気で怒らせちゃったもんなぁ。はあぁ…。

「…このような雨の日に、先程から溜め息ばかり。全く気持ちまで湿気てくる。カラリと笑っているのが、小娘の唯一の取り柄ではなかったか?」

自分の部屋の窓に寄り掛かって空をボンヤリと見ていた私は、突然の声に慌てて振り向いた。

「…!…大久保さん!…いつから…」

何だそんな事といった顔で事も無げに

「小娘が私に逢いたいと呟いた辺りからだ。」

……//////!!!

「……な、何言ってるんですか!そんな事、一言だって言ってません!」

「ほぉ、そうだったか。それにしては、顔が真っ赤だぞ?さしずめ内心は図星だったのだろう?はっはっはっ。」

こ、この人はぁぁああ!!信じられない!こんな人のせいで気落ちしてたのかと思うと、馬鹿馬鹿しくなって来た!もう止めよう!
色々考えても、この人には無駄だ。

「龍馬さんなら、お部屋にいると思いますよ!此処にいたらどんどん湿気ちゃうから、早く出た方が良いですよ!」

「そうだな、そうするとしよう。」

そう言って部屋を出ようとした。けれど敷居の所で立ち止まると

「おぉ、忘れる所であった。」

振り向いて私に近づくと、白い封書の様な物を差し出した。えっ?私に?戸惑って大久保さんの顔を見ると今まで見た事が無い位、優しいうっとりとする様な眼差しで微笑んでいた。
つい、見惚れてしまう。

「ふふ、何も変な仕掛け等無いぞ?これを寺田屋の女将に托せ。良いようにしてくれるだろう。これで西本願寺に連れて行かれても、私が出て行ける。まあ、その様な事は無しに願いたいがな。」

「あ、あの、えっと…待って下さい。これは何ですか?私が頂いて良いんですか?」

「何かは、武市君にでも教えて貰え。これは私から詩乃への詫びだ。」

「……詫び?…って、今…名前呼んだ?!」

すると、大久保さんは封書を私の手に持たせると部屋を出て行きながらニヤリと笑って

「胸に触れた…詫びだ。……いや、礼と言った方が良いか…。なかなか豊かな触り心地だったぞ。」

私は手にしていた封書を思いきり投げつけたが、閉じられた襖にパスンと当たり乾いた音を立てて落ちた。その襖の向こうからは、心から愉しそうに笑う声がゆっくり去って行った。




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