初戀の萌し・6

寺田屋までの帰り道、大久保さんはまた手を繋いでくれていた。でも、さっきとは違って優しく包まれている気がした。
寺田屋に着いて玄関を開けると皆が今にも出るという所だった。

「詩乃!今、迎えに行こうかと思っちょったんじゃ!無事じゃったか!良かったのう!」
「詩乃さん!全く君って子は…。」
「詩乃…お前……。」
「大久保さん、姉さんを助けて下さり…ありがとうございました。」

皆が優しくて、ホッとしたらまた涙が出そうになった。でも、大久保さんの言葉に現実に戻された。

「小娘と壬生狼が名を呼び合い世間話に興じる。この意味を瞬時に理解出来れば笑って等いられんと思うがな……。」
「坂本君、守りたいと言うのであれば、これより先々も守れるように考えるべきではないのか?口で言うだけは易いぞ。」
「武市君達も無事の邂逅を寿ぐだけとは、だいぶ小娘の脳天気に毒されているようだな。」

誰もが、大久保さんの言葉に唇を噛んで目を伏せている。

「大久保さん!そんな、皆は悪くないのに…。悪いのは私なんですから、皆にはそんな風に言わないで下さい!!」

「……黙れ。先程新撰組の恐さを教えたばかりだと言うのに、もう忘れたか!お前が名前と顔を奴らに覚えられたという事は、これから後も坂本君達と共に居る所を見られてはならんと言う事だぞ!良いか、頭の悪いお前の為にかみ砕いて教えてやる。例えば、お前が寺田屋の玄関先で掃除をしている所を見られた後、坂本君達と仲間だと知れればどうなる?土方はお前を気にしていた。後を付けられて此処がばれたらどうなる?しかと、良く考えろ!」

大久保さんの剣幕に、誰も何も言えない……

「……騒がせたな、失礼する。」

踵を返し帰って行く大久保さんの背中を、再び黙って見ているばかりだった……。






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