初戀の萌し・4

「ほぅ…新撰組は人の行き交う往来で、昼日中から女子を口説くのが最近の仕事か。」

後ろから、嫌味混じりのからかうような声が聞こえて来た。
…この声、知ってる……
勢い良く振り向くと、風に翻る紫の羽織り、長めの前髪、垂れてるけど理知的な瞳……大久保さん!
でも土方さんは大久保さんの登場にちっとも慌てずに

「これは、これは、薩摩の大久保さんでしたか。生憎と新撰組も不穏な動きをする奴らが多くて、餓鬼を口説いて遊ぶ程、暇ではないんですよ。」

大久保さんはチラリと私を見ると、土方さんに向かって話し始めた。

「そうか、それは良かった。私の大事な預かり人が、何かされたのではないかと心配した。」

えっ!!預かり人って?
し、しかも大事なって!何?私、初耳なんですけど!

「詩乃…お前、薩摩の者だったのか…。」

流石に、これには驚いたようだ。お陰で、鋭い土方さんでも私の心の中の百面相には気づいてないみたいだ。ああ、でも大久保さんの話しに合わせなくちゃ!

「はい!そうです!大久保さんにはお世話になっております!」

大久保さんは、さりげなく私の腕を引き寄せて、自分の背中に隠してくれた。

「と、言うことだ。連れ帰るがまだ何か聞きたい事はあるか?」

「ちっ、あんたが抱えてる女なら、異国の物を持っていても不思議はないって事か。ふん、何ならお送りいたしましょうか?」

「暇では無いのだろう…不要だ。」

そう言うと、大久保さんは後ろを振り返らずに歩き始めた。

「小娘、真っ直ぐ薩摩藩邸へ行くぞ。後ろは振り返るな。奴らは何処へ向かうか確かめる為に、ついて来るようだからな。」

厳しい硬い声で、前を向いたまま話す。手を繋いでいてくれてるけど、直ぐに逃げたり出来るようにだろう。だから、私も返事以外は何も言わずに早足で薩摩藩邸へ急いだ。。
薩摩藩邸の門を潜ると、大久保さんは門番さんに門を閉めるように指示を出し、私を部下の藩士さんに預け

「この小娘を、私の部屋へ連れて行け。」

と言うと、自分は他の藩士さん達と何処かに行ってしまった。
案内されて藩邸の奥の方へ連れて行かれる。何度か、龍馬さん達について来ているけど、こんなに奥の部屋に来た事は無い。なんか、さっきまでの所は人が沢山いてガヤガヤとしていたけど、ここはしんと静かで庭で鳴いてる鳥の囀りとか、どこかで流れているらしい水の音とカコーンという…なんだっけ…えっと、鹿威し!の音が聞こえる。

私の部屋って言ってたな。大久保さんの私室か…。
藩士さんは奥まった所にある部屋の襖を開け中に入ると、更に先に進む襖の前で膝をついて襖を開け私に頭を下げた。

「こちらの部屋で、お待ち下さい。」

私は言われるままに進むと、すっと後ろで襖が静かに閉まった。なんだか緊張してしまう。最初に綺麗に並べられた沢山の本が目に入った。次いで、広い部屋を見回すと本だけじゃなく全体的にきちんと整理整頓されている気持ち良さが漂う。開け放して続き部屋になっている隣の部屋に目を遣ると縁側があった。行ってみると一人掛けの椅子が小テーブルと共に縁側の近くに置いてあった。懐かしさが湧いて来て、指で椅子の背もたれやひじ掛けをなぞっていると、

「椅子は初めてではないのか?」

どうしてこの人はいつもいきなりなんだろう。と思いながら振り向くと袋手にして首を傾げて私を見ていた。





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