初戀の萌し・2
私は気を取り直して、小路の角から一歩前に踏み出そうとして、突然以蔵に肩をグッと掴まれた。
「先生!浅葱です!」
「ああ、しかもあの二人とはな…。」
私は以蔵に後ろに追いやられたから、何がいるのかさっぱり見えない。
「何ですか?何がいるんですか?」
二人の様子がいつもと違って、緊迫してるのが解る。声を潜めて問い掛けた。
「新撰組がいるんだ。詩乃さんは初めてかい?」
「新撰組…。はい、名前は聞きましたけど…。見かけた事はありません。」
「あの二人だ。見つかったら…まずい。斬られる。」
「……斬られっ!?」
思わず息を飲んでしまう。
「以蔵!!黙れ!」
「……すみません。」
「怖がらせて済まない。……彼等と私達がやろうとしている事は考え方が違う。彼等から見たら私達は大悪人になるんだろう。」
「先生、此処は俺が出ます。」
「えっ?!見つかったら駄目なのに、出るって!何言ってるの?」
「以蔵はこういう時の為にいるんだ。詩乃さんは私と…。」
「そんなの駄目です!二人は逃げて下さい!」
「お前こそ、何を言っている!俺が引き付けている間に早く先生と此処を離れろ!」
「さぁ、詩乃さん!聞き分けなさい!」
私は武市さんの懐の中へ、いきなり手を差し入れた。突然の事に二人は驚いているようで、茫然としている。武市さん、顔真っ赤だ。ごめんなさい。そして、一歩二人から離れると
「私は顔知られてないから平気でしょ?新撰組に話しかけて注意を逸らして来るから、その間に二人は逃げて!」
そう言うと、二人の返事を待たずに通りに飛び出していた。
二人組の人に近づいて行く。気を引く為だから、取り敢えず話しをしてもらわなきゃ意味ない。
「あ、あの…。」
怖い気持ちを堪えて、おずおずと話しかけてみた。
「すみません…これ、落としませんでしたか?」
二人のうちの一人が、私の古典的な少女漫画のナンパの掛け声に振り向いてくれた!優しそうな笑顔で少しホッとする。
「…手拭い…ですか?んー僕のではないですね。土方さんのですか?」
さっき、武市さんの懐から抜き取った手拭いをさも拾った風を装い声を掛けたのだ。優しそうな人がもう一人の土方と呼ばれた背の高い人に話し掛けた。
「ふん、俺はそんな柔な柄は持たねぇよ。」
土方さんはけだるそうに、手拭いを見ながら返事をして私を見た。
「あぁ、そうでしたか。お二人が歩いた後に落ちていたので、てっきり落とし主と思ってしまいました。私の勘違いのようですね。失礼しました。」
私は頭を下げながら、さっきまでいた小路の角を確認する。武市さんと以蔵の姿は見えない。これで離れれば任務完了と安心感に包まれていた。そして、頭を上げ背を向けようとした時、優しそうな人が私の顔をじっと見る。そして、話し掛けてきた。
「失礼………貴女、僕と以前に、会った事ありませんか?」
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