Merry Christmas,Mr...・3
*
──7:00p.m。
あれから一度自宅に戻り、支度し直して街に出てきた。携帯電話は、岡田さんが預かってくれている為に、今は手元にない。
*
『──わたし…は…、行きたい、所…は………………ツリー…です』
何処に行きたいのかという彼の質問に、クリスマスツリーと答えた。すると分かった、と頷き、承諾してくれた。
『何時頃なら都合が良い?』
嬉しくて嬉しくて、「今すぐでも」と言いかけて留まる。
『………じゃあ、七時でも、大丈夫ですか…?』
『俺は何時でも』
構わない、と答えながらラインストーンをひとつ置いたのを見計らい。思い立ったわたしは、まだ仕上がらない携帯を彼に預けたまま、自宅に一度戻ると伝えて店を後にしたのだった。
*
──そして遂に、白い光を放つ大木の前に来たのだ。
「──…これで良かったかな…」
約束の場所に向かう途中、立ち寄ったブティックで買ったプレゼントの袋を見つめて呟いた。
心配なのは、プレゼントだけではない。
着替えてきたけれど、変じゃないかな?
髪型はこれで良い?
メイクは失敗してないよね?
ネイルは剥げてない?
…気になり出したら切りがないのだけど。
約束した時間ぴったりに着いてしまったわたしは、腕時計を見ながらそわそわと気持ちばかり先走らせていた。
周りは待ち合わせているカップルばかり。大きなツリーでお互いを見つけられない人が多いみたいで、皆携帯を片手に居場所を確認し合っているようだ。
携帯を残してきたことを少しだけ後悔した。
……だけど。
「───…もしもし」
「!」
背後からと、耳元にあてられた冷たい何かから、聞き慣れた声が聴こえて身を震わした。
「……岡田、さん?」
振り返らずに、その何かを恐る恐る受け取って問い掛けてみる。
ふ、と零れた吐息が耳に響き、そうだと返された。
一度放し、携帯のイルミネーションを確認すると、そこには青く光る風車。その美しさに溜め息を吐いた後、御礼を言う為に振り返ろうとしたら、肩を捕まれ制された。
「…そのまま、話しても良いか?」
「………はい」
彼は携帯を持ったまま話を続ける。わたしも携帯を持ち直して頷き、耳を傾けた。
「……すまない。こうした方が、話し易いから」
「…いえ。わたしも、そうかもしれません」
どちらからともなく自然に笑い合い。ぎこちないながらも、やはり心地好くて温かかった。
「……実は…」
受話器の向こうから小さく切り出され、黙って静かに、ゆっくりと頷く。
「……………」
「……………」
……続く言葉が、なかなか出てこなかった。
沈黙の中で微かに聴こえた息遣いが何故か切なくて、泣きたいくらいに愛しかった。
──突如、ブツリと電話の切れる音がする。…と同時に、包み込まれるような衝撃を受けて体が揺れた。
………あ。
わたし、今。
…………抱き締められてるんだ。
胸元を見下ろして、確信する。触れるか触れないか、壊れ物を扱うようにわたしを包む手。指先に少し付いた、わたしの青いマニキュア。
今日、何度も見つめた筈のそれを目にする事が出来て嬉しかった。
「……あんたはどう思ってるか分からないけど」
直接流れ込む彼の声に酔いそうになって、無意識に目を閉じる。
「……正直、俺は」
ぽつりぽつり、一言ずつ大事そうに紡いでいく囁き。
「クリスマスを、こうしてあんたと過ごせて…」
…あぁ。心臓が破裂しそう。
続く言葉に期待を隠せない。
「………あんたと一緒にいれて、嬉しかった。………なぁ、───」
小さく小さく名を呼ばれ、耳から全身に熱を吹き込まれる。
「──好きなんだ、あんたが…───」
次の瞬間、わたしは彼に飛び付いていた。
…もう、何から伝えたら良いのか。
……取り敢えず。
プレゼントの手袋はまだ渡さないでおこう。
…だって。
貴方がわたしのものだって、証拠を。
もう少しだけ、確認したいから。
Fin.
***
晋作’s Barのクリスマス企画作品として、瀧澤さんとコラボさせていただいた作品です。
(私はイラストを担当させていただきました)
ちょっ・・・このドキドキな展開は何!?
以蔵とこんなクリスマスを過ごせたら、言うことないのですがっ。
あと、個人的には晋作さんが男前過ぎてツボでした(*^。^*)
こんな人の下で働きたいわ〜。
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