Merry Christmas,Mr...・2
「──よぉ。やってたか」
「…マスター」
現れたのはこの店のマスターだった。
カカ、と楽しげな笑い声を上げながら、わたしたちに歩み寄る。
「…ほぉ。お前の好きな色は青か」
白い携帯に映えるマニキュアを見て呟いた。それに頷きながら、わたしも岡田さんの手元を見る。
極細の筆、オレンジスティック、ピンセット、ラインストーン、数本のマニキュア、トップコート…。
数々の小道具をプロのネイリストみたいに器用に使いこなしていく。
「…高杉さん、寝てなくて大丈夫ですか」
「あん?もう四時だろ。いい加減起きてねえとな」
「そうですか…」
岡田さんの気遣いを鼻であしらい、作業中にも関わらずその肩に腕を回す。
「それより岡田、お前…今日はバイト休めよ」
「……は?」
「…えっ?」
わたしたちは同時にマスターの顔を見た。すると、屈託のない笑顔を返される。
「今日は休みだ。二人でどっか行ってこいよ」
「…今日はクリスマスパーティーの予約が…」
「なぁに、坂本んとこのだろ。俺様の店を四、五人程度で貸し切りにするとは彼奴もふざけてるよな」
小五郎と俺だけで事足りる。
そう言って、再び同じ言葉を繰り返す。
「とにかく岡田は休みだ。それが終わり次第、此処を出てけ。パーティーの準備があるからな」
「……………」
一方的に宣告された岡田さんは、何かを言いたげに雇い主を睨んでいた。
「…何だよ、何か不服か?」
「……バイト代が減るのは困ります…」
「…あぁ、何だ、んなの気にしてたのか。安心しろ。バイトでは異例の有給休暇にするよう、小五郎に言っとくぜ」
……バイトで有給!?
驚いて岡田さんの方を見る。すると、納得したのか、黙って作業を再開し始めていた。
「…精が出るなぁ」
様子を見ていたマスターは今一度カカ、と笑い声を上げ、流れるような足取りで厨房へと去っていった。
……ていうか、今のって。
マスターはわたしに気をきかせてくれたのかな…?
……あの。
声を掛けようとした瞬間、
「……なぁ、」
彼の声の方が僅かに早くて、わたしは口を噤んだ。
「…?」
返事の代わりに首を傾げて見せると、手を止め此方を見つめる。
「……………」
「……………」
お互い、無言で見つめあう。
どきどき。
どきどき。
目が合った刹那、心臓が口から飛び出そうなくらいに五月蝿く鳴って、息苦しささえ覚える程だ。
だけど何故か、この目は逸らせなかった。
…早く、何か言って。
祈るような気持ちで、彼の言葉を待つ。
「──…何処、行きたい…?」
そう訊ねてきた彼の顔が少し赤かった。同じようにわたしも頬が熱くなって、更に鼓動のリズムは速まっていく。
「……わたし…は…───」
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