初戀の萌し・1

ザッザッ…ザッザッ…

「んーー!」

今日は天気良いなぁ。気持ちもこの位晴れたらいいのに。寺田屋の玄関前の通りで掃き掃除をしながらつい、空をぼーっと見上げていた。

「いくら眺めても、団子は空から降っては来ないぞ。さすが、小娘は物知らずだな。」

後ろから、厭味な言葉が人を馬鹿に仕切った声音で降ってきた。私はハッとして振り向くと、予想を裏切らずに垂れ目がニヤリと笑っていた。

「…そ、そんな事!当たり前じゃないですか!ふん!……いらっしゃいませ!大久保さん!」

「うむ。坂本君はいるか?」

そう聞きながらも、私の返事なんか気にしないで、ズンズン歩いて玄関に入って行ってしまった。つい、ほぅと息を吐いてしまう。
私は実は大久保さんが苦手だ。最初の出逢いの仕方も原因の一つだけど、私に薩摩藩邸へ来いと言ったり、小娘扱いしたと思ったら、じっと見つめて来てドキドキさせたり、本気なのか、からかってるのかよく解らない人だ。
お茶を煎れに行こうとしたら、玄関がガラッと開いて入って行ったばかりの大久保さんと龍馬さんと慎ちゃんが出て来た。

「詩乃、これからわしらは出掛けるきい、寺探しは武市と以蔵とじゃ。ええか?」

「はい。今日はお二人は大久保さんと御一緒ですか?」

「いえ、今日は龍馬さんが土佐藩邸で、俺が大久保さんと長州藩邸っス。」

「…そっか、バラバラなんだ、気をつけてね。行ってらっしゃい。」

「小娘、私には何もないのか。」

「…あっと…お気をつけて…。」

慌てて、付け足したように言葉を添え上目遣いで見ると、一瞬チラリと私に目線を寄越し無言で行ってしまった。



私が寺田屋へ逗留を決めてから、十日が過ぎた。
明日は帰れると自分に言い聞かせているけど、一日、また一日と日が延びていく。焦りも不安もこちらに来てから今、ピークに達していた。
でも、そんな顔は皆には見せないようにしなきゃ。
三人の姿を見送っていると、武市さんと以蔵が玄関から出てきた。

「さぁ、詩乃さんそろそろお寺を探しに行こうか?」

「はい。お願いします!」
最初に皆と出会った鳥居の並んでいる所の近辺は、もう何度も見て回っている。今日はその辺りにこだわらずに探してみようと武市さんが提案してくれた。
だから今まで行ってない方面へ足を延ばしていた。

「お寺は結構あるのにな…。こんな遠くまで、すみません。」

「詩乃さん?気にしないで。僕達が探してあげたくてしている事だから。ね。」

「…先生がこう仰ってるんだ…気にするな!」

「武市さん、以蔵…。ありがとうございます。へへ。」



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